1. Media116
  2. 社会
  3. その他
  4. ビジネスの場における多様性の実現 ~DTO Tokyo 未来発見セミナーレポート 後編~

ビジネスの場における多様性の実現 ~DTO Tokyo 未来発見セミナーレポート 後編~

この記事を共有

ライター:aki

パラリンピック大会の開会直前、8月22日から24日まで“Dear To Overcome Tokyo”(デア・トゥ・オーバーカム・トーキョー、以下DTO Tokyo)という国際フォーラムが開催されました。
このフォーラムの国内プログラム「未来発見セミナー」に参加し、DTO Tokyo 事務局の品川謙一さんにお話をうかがいました。

今回は第2回。ERGについてのジャスティン・グリーンさんのセミナーレポートです。

ERGとは:

Employee Resource Group(エンプロイー・リソース・グループ)の略で、従業員リソースグループとも呼ばれます。
企業内の様々な属性の従業員(例えば女性・障がい者・LGBT)が、企業内の共通の属性の従業員グループでをつくり、共通の課題や困難などの情報を共有しています。企業の経営層がそれを推奨し応援することと、コミュニティー作りを重視した活動であることが労働組合やサークルとは異なります。

「障がい」は、個人の状況と環境要因が組み合わさって起きる

ジャスティン・グリーンさんは、企業コンサルティング等で有名な米国アクセンチュアで、管理職として活躍しています。
また、発作性睡眠障がい、失読症、強迫神経症、末梢神経障がいなど複数の障がいがあります。現在、約2,000名のメンバーをもつ全米障がい者ERGのメンバーシップ拡大リーダーも務めています。
ジャスティンさんの講演内容は事前に録画され、事務局の品川さんがご自身で翻訳。国内プログラムでは完全日本語吹き替えで流されました。
講演では、ERGのメリットだけではなく「障がい」とはなんなのか、障がいのある人が企業で活躍するために大事な視点はなにか、ということを話されていました。

ジャスティンさん近影
ジャスティン・グリーンさん

障がいとは何か。

ジャスティンさんはWHOの定義がいちばんしっくりくるといいます。
障がいは人間であることの一部であり、私たちのほぼ全員が人生のある時点で永続的に、または一時的に障がいを負う可能性があります。そして最も重要なのは「障がいがある」という状態は、個人の心身状態が「環境要因と組み合わさったときに発生するもの」であるということだといいます。
つまりその人の心身状態が同じであっても環境要因によって、その特性が障がいとならない可能性があるということです。

そして、「教育」も重要であると、ジャスティンさんは話しています。障がい者支援に関係する法律や、誰でもが障がいを負う可能性があることについて子どもたちにきちんと教えているかどうか、振り返ることが重要です。障がいに関する基礎的な知識を共通認識にすることで、障がいのある人に出会った時の驚きやためらいを軽減することにつながります。

障がいの中にある個人ではなく、「個人」の中の要素が「障がい」

さらに、障がいという枠にとらわれず「個人」を先にとらえる考え方をしていくべきだと話します。
「障がい」という枠の中に「個人」があるのではなく、〇〇さんという「個人」の中のさまざまな要素の一つとして「障がい」があるという考え方が大切で、「障がい者」(disabled person)の代わりに「障がいがある”人”」(person with disabilities)という「人=個人(person)」が先に来る表現「個人ファースト用語」を使いましょうと呼びかけます。これにより認識の変化をうながすことがとても重要だと話していました。

そのうえで、ERG参加によって同じ属性や問題意識のある仲間とつながることが大切です。ありのままの自分を受け入れ、応援してくれるコミュニティーがあることで、企業内での帰属意識が高まり、企業にも貢献できるようになるだろうと話してくれました。

セミナーの様子

セミナー資料

障がいがあるというのは、多くの人にとってはとてもつらい経験です。
しかし「人と違う自分を許してあげてほしい」とジャスティンさんは語ります。
「障がいがあるというのは、暗闇の中にいるようなものです。けれども暗闇を怖がるのは当然のこと。理解できない状態を怖がる自分を許せるようになる時がきます。」
と語りました。

自分自身の中にあるバリアをまず超えること

ジャスティンさん自身も、はじめから自分の障がいについて職場で明かしていたわけではありませんでした。しかし、現在の職場で数年間働いたころ、自分の上司に障がいについて明かしました。そして、起こりえる事態について相談したといいます。
上司は「よく話してくれた」と受け入れ、チームのメンバーや取引先ともその内容を共有する時間をとってくれました。

管理職になった今でも、ジャスティンさんは新メンバーには自分の障がいについて話す時間をとっていると言います。
隠し続けることは辛く、結果として仕事にもマイナスに働いていました。まずは自分の中にあるバリアを超えて、打ち明けることがはじまりであると、講演録画後の質疑応答で品川さんに話してくれたそうです。

日本におけるERGのあり方を探る

品川さん近影
DTO Tokyo 事務局 品川謙一さん

ERGについては、日本に根付くには課題も多くあります。前提となる障がいへの理解や共通認識の面での土台づくりも必要でしょう。
ただ、ERGという名前が普及しなくても、日本独自の定着の仕方はあるのではいかと品川さんは考えています。
「今回のセミナーでいうと、あいおいニッセイ同和損保の倉田さんのお話がそうだったのですが、所属のオリンピックアスリートとパラアスリートが一緒に合宿をすることで、アスリート仲間というコミュニティー作りを進め、ともに企業全体で応援するという内容でした。」

こうした組織的な動きに限らず、企業内で近い属性の人同士で井戸端会議的に課題を共有するようなことは、実際に多いのではないかと品川さんは考えています。
そうした「草の根的な動き」を企業が自社のビジネスにうまく生かせるようになれば、「日本でも結果的にERGが定着する可能性は十分にある。」と品川さん。
また、国際的なビジネス・トレンドが日本企業の経営層に影響を与えてくれることも期待しています。

「ERGに取り組む企業が増え、多文化共生社会がビジネスの場で実現したら素晴らしいことだと思います。」

今後は、国際事例と国内事例の橋渡しを

今年のDTO Tokyoは終了しましたが、DTO日本事務局としての活動は今後も継続されるそうです。
「DTOの国際的なネットワークを、ぜひ国内の障がい者コミュニティに還元していきたいと思っています。」と品川さんは話します。
特にジャスティン・グリーンさんの来日については、DTO公式スポンサーのアメリカン航空が、ジャスティンさん来日のためのチケットを留保しているということもあり、「状況次第ですが来年春ごろまでに来日を実現する計画」とのことです。

ジャスティンさんの来日を手始めに、「国際事例と国内事例を共有する場の提供を今後も考えていきたい」という品川さん。世界の当事者コミュニティとの橋渡しとして、セミナーや交流会など「やれることを今後も続けていきたい」とのお話でした。

「ビジネスを通して」障がいのある人をサポートするというのは、大変意義のあることだと感じました。今後の活動にも期待したいと思います。

ビジネスの場における多様性の実現 ~DTO Tokyo 未来発見セミナーレポート 前編~ を読む

DTO Tokyo 公式サイト(今後の情報も随時更新予定):https://dtojp.org/

この記事を共有

アバター画像

ライター aki

ASDの長男と、たぶん定型発達の夫と暮らしています。私自身は診断をうけていませんが、おもちゃを一直線に並べて遊ぶ子どもではあったらしいです。                Twitter: https://twitter.com/akiko_m_psy10

ブログ
https://note.com/aki_m_psy10
公式HP

このライターの記事一覧を見る

おすすめ記事

Media116とは?

アットジーピー

障害別専門支援の就労移行支援サービスアットジーピージョブトレ。障害に特化したトレーニングだから働き続ける力が身につく。職場定着率91パーセント。見学・個別相談会開催中!詳しくはこちら。

MENU