「小さなおでかけの成功体験が、次の大きな体験のきっかけに」実体験に基づいた課題意識/一般社団法人Ayumi代表理事・山口広登さんに聞く
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ライター:aki
「障害の有無に関係なく、選択肢のある社会に」。そんなビジョンを掲げる一般社団法人Ayumiは、2021年設立。現在、月間PV数10万を超えるWEBメディア、バリアフリー情報サイト「ふらっと。」を運営しています。また、店舗・施設のバリアフリー化伴走支援サービス「Barrier-Free Partner」も展開中です。
今回は、Ayumi代表理事の山口広登さんに、「ふらっと。」で大切にしていることや事業を通して目指す社会についてお話をうかがいました。
温泉に入れなくても「慣れているから大丈夫」と言った車いすの従兄弟
「店舗や施設を利用する際、『行くまでのプロセス』にもっとも大きな情報格差があることに気づきました」
新幹線の予約手順がわかりづらかったり、行きたい場所のバリアフリー情報が少なかったりする現状について、「わからないから行けない、一歩踏み出せないという人の背中を後押ししたかった」と山口さんは話します。
一般社団法人 Ayumi 代表理事・山口広登さん
一般社団法人Ayumi代表理事の山口広登さんが、バリアフリー情報サイト「ふらっと。」を始めた背景には、身近な人と旅行したときの経験がありました。
「私の従兄弟は車椅子ユーザーです。あるとき、彼と一緒に『バリアフリー』をうたっている温泉へ旅行に出かけました。たしかに入り口には段差がなく、バリアフリーに見えました。しかし、浴室と脱衣所には段差が何段もあり、車椅子では大浴場に入れませんでした」
事業所側の「バリアフリー」の認識に違和感を覚えた山口さん。さらに、従兄弟からの一言にも衝撃を受けました。
「『慣れてるから大丈夫』と従兄弟は言ったんですよね。
私は、気持ちはわかるけれど慣れちゃいかんよね、これはだめでしょ。と思いました」
当事者と共につくるメディアと、事業者のバリアフリー化伴走事業
「ふらっと。」はお出かけ情報、制度情報、当事者へのインタビューや障害者の日常生活に寄り添ったライフハックなど、幅広い情報を網羅的に扱っています。
「当事者にとって知りたい情報があることはもちろんですが、別のメリットもありました。『この情報量のAyumiさんだから、バリアフリーの研修やコンサルティングを任せたい』と事業者の皆さんに感じてもらうことにもつながっています」
Ayumiでは、事業者のバリアフリー認証も含めた、バリアフリー化伴走支援サービス「Barrier-Free Partner」を展開しています。
85項目以上にわたる調査内容では、段差や設備といった物理的バリアだけではなく、接客対応などの”心のバリアフリー”も評価の対象です。
認証を受けた店舗や施設は、バリアフリー対応の店舗としてWEBメディア「ふらっと。」で紹介しています。当事者が本当に知りたい情報を、正確に届けることを大切にしています。
「ふらっと。」のバリアフリー対応店紹介は以下のリンクから。
バリアフリー認証店 一覧マップ – Ayumi
インスタグラムでもバリアフリー対応店舗を紹介しています。
ふらっと。| 身体障害者と家族のためのおでかけ情報アカウント (@barrier_free_spot.ayumi) • Instagram photos and videos
そして、「ふらっと。」の記事を書き、取材を行うライターもまた、障害のある方です。
「当事者の声が、メディアにとっての価値になっています。彼らが実際に感じている課題やニーズが『ふらっと。』で体現されているので、誰か1人には絶対に刺さる情報になっているのです」
実際、その反響は数字にも表れています。「バリアフリー情報サイト」というキーワードで検索すると、「ふらっと。」は検索結果で2位。月間PV数も10万人を超えています。(2025年5月時点)
「当事者へのインタビューも、当事者同士だからこそ引き出せる本音がある。これも『ふらっと。』ならではの大事なポイントだと思っています」
インタビュー対象者は、「今までフォーカスが当たってこなかった人たちを取り上げたい」と山口さんは考えています。
「メディアに出ることで、インタビューを受けてくださった方の自信につながることがあります。また、記事を読んだ人が『私にもできるかも』と思える、行動促進につながることがある。そのような記事をこれからも増やしていきたいです」
「ふらっと。」のインタビュー記事の一例は下記のリンクから。
「誰もが同じ目線で楽しめる場を」車椅子生活の経験を活かし、新たな可能性に挑戦する牧野美保さん – Ayumi
小さな成功体験が、大きな経験に挑戦するきっかけに
「ふらっと。」では、今後、お出かけ情報の記事に、より力を入れていきたいと山口さんは話します。
「私の妻も車椅子ユーザーなんです。最初は、飛行機にも乗りたくない、怖いと言っていました。でも、私が『一緒に行こう』と声をかけて、あるとき長崎への旅行にチャレンジしました。その帰りに、『沖縄や北海道にまた飛行機に乗って行きたい』と言ったのです。
お出かけは人生観を変えるし、その人の幸福度を確実に変えるきっかけになると思っています。Ayumiのメンバーも含めて、お出かけで人生が変わったいう人がとても多いのです」
そんな実感から「小さな成功体験が、ゆくゆくは大きな経験に変わっていく」と山口さんは信じています。
一方で、障害者がお出かけをする際のハードルについては、当事者側と事業所側、両方の意識と行動を変えていく必要がある、と山口さんは続けます。
「お出かけを諦める障害の当事者がいらっしゃるなかで、家族や医療・福祉従事者など、支援者側の声かけの質や量も圧倒的に足りないと感じます。
今、徐々に情報は多くなってきています。改めてもう1回踏ん張ろう、と伝えたいですね」
2024年4月からは、合理的配慮の提供がすべての事業者に義務付けられました。それでもなお、バスやタクシーの乗車拒否が多すぎると、山口さんは感じています。
「旅行先で妻とタクシーに乗ろうとすると、ブーンと通り過ぎてしまうのです。まだまだ無意識の偏見を感じますね」
今後「ふらっと。」では、実際に様々な場所に行ってみた感想など、当事者の実体験に基づいたお出かけ情報をさらに充実させていく方針です。
「デートのスポット情報も積極的に取り上げていきたいですね。以前、『六本木デート完全ガイド』という記事を作ったのですが、そうした情報を増やしていきたいです。
また、バリアフリー化や合理的配慮について、事業者向けの啓蒙記事ももっと出していきたいと思っています。そのような記事があれば、コンサルティングの依頼につながる可能性もあるからです」
「ふらっと。」のデートスポットの記事は以下のリンクから。
大人のための六本木デート完全ガイド|バリアフリースポット&おすすめグルメ徹底解説 – Ayumi
潜在的偏見のない、フラットな世界を目指したい
「ふらっと。」を通じて社会に届けたい価値について、山口さんは次のように話しました。
「障害者と事業者のマッチングができたらいいなと思っています。障害者向けのサービスやアプリは結構出てきていますが、十分に広まっていない現状があります。知りたい人たちと広めたい人たちを、『ふらっと。』を通じてマッチングしていけたらと考えています」
また、「『ふらっと。』を見れば自分たちが知りたい情報があると思ってもらえる状態がメディアとしての理想です」
最後に、事業を通してどんな社会を実現したいのかを聞きました。
「潜在的偏見がない、フラットな世界を目指したいです。障害当事者が記事を書き、マーケティングをしていると言うと、『え、できるんですか?』と驚かれることがあります。それ自体が、無意識の偏見なんですよね。
そういった偏見をなくせた瞬間に、私のミッションは達成されると思っています」
バリアフリー情報サイト「ふらっと。」は以下のリンクから
ふらっと。〜バリアフリー情報サイト〜|Ayumi
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ライター aki
ASDの長男と、たぶん定型発達の夫と暮らしています。私自身は診断をうけていませんが、おもちゃを一直線に並べて遊ぶ子どもではあったらしいです。 Twitter: https://twitter.com/akiko_m_psy10
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