【超福祉展】ワークスタイルの変化は障害者にどう影響を与えるか ~超福祉展の「人生100年時代」を聴いて~
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ライター:Media116/超福祉展2017
皆さん、こんにちは。障害当事者とその家族のためのウエブマガジン「D.culture」で編集をしている桐谷匠です。私自身も’00年、統合失調症を発症して、現在に至ります。
さて、いよいよ始まった超福祉展。11月8日(2日目)の今日は「人生100年時代」と題されたシンポジウムが開催されましたが、その第2部のパネルディスカッションに参加してきました。
集中的に議論されたのは労働者のワークスタイルの変化についてです。インターネットというインフラの普及と人々の意識および社会情勢の変化により、労働者の“働き方”がいま、大きく変ろうととしています。ここでは、その変化が我々障害者に与える影響について考えてみます。
“使える人”から“面白い人”へ
まず登壇したのは、株式会社リ・パブリック共同代表の田村大氏。福岡に在住しつつ仕事は主に東京でこなすという“職住近接”ならぬ“職住分離”を実践している方です。
田村氏の話の中で障害者にとって興味深いのは「ギグ・エコノミー」という概念。「ギグ・エコノミーという名称だけ聴くと、なんだか難しそうだぞと思われてしまうかもしれませんが、要はミュージシャンのジャム・セッション(=ギグ)のようにプロジェクト単位で人が集まり、プロジェクト終了と共に散っていくという離合集散の繰り返しの中で仕事をこなしていく働き方のこと。そこでは「職が上から降ってくるのではなく、自ら仕事を創り出すという方法論が重要になる」と田村氏は言います。
そして、そこでポイントとなるのは求める人材像が“使える人”から“面白い人”に変わるということ。従来のように一つの会社に就職し、固定的な組織の中で職が上から降ってくるのを待つというワークスタイルでは“使える人”=能力のある人こそが求められる人材像でしたが、ギグ・エコノミーでは能力ではなく、その人が面白い人かどうかの方が重要になるといいます。
どうですか? 障害者にとってチャンス到来と思いません? 障害者とは、身体・知的・精神の種別を問わずできること・できないことに波があります。したがって、能力至上主義の会社組織の中では、どうしても評価されにくい部分があります。でも、その人が“面白い”かどうかが評価軸になれば、その能力の波の問題にはなりません。ギグ・エコノミーが障害者にとってチャンス到来を意味するとは、そういう文脈に沿って言いうることなのです。
サイバー・オフィスが障害者の働き方を変える
次に登壇したのは、株式会社リクルートホールディングス働き方推進室の趙愛子氏。先端企業・リクルートの中でワーカーの働き方についてさまざまな実験を繰り返している方です。
趙氏の講演の中で障害者の働き方に大きなインパクトを与えると思えるのが「サイバー・オフィス」の実験について。ご承知の通り、サイバー・オフィスとはインターネットを活用して一つのオフィス(=拠点)にワーカーが集まるのではなく、バーチャルな分散型のオフィスを実現していくというコンセプトです。
趙氏の実験によると、「リアルのオフィスにワーカーが集まって会議するより、バーチャル・オフィスでビジネス・チャットを行う方がワーカー間のコミュニケーションが高まる」という結果が得られたといいます。
サイバー・オフィスの肝は、ワーカーを時間と場所の制約から解放するところにあります。すると、どうなるか。たとえば交通手段を用いた移動に困難が伴う身体障害者や精神障害者なども、より仕事に参加しやすくなるわけです。サイバー・オフィスを実践している企業はまだ少ないですが、これがビジネス・スタンダードになれば、障害者にとって大いに利するところありといえるでしょう。
ワーカー一人ひとりの多様性を生かしていくのが企業の役割
最後にモデレーターの齋藤敦子氏(コクヨ株式会社ワークスタイル研究室 主幹研究員)より、超福祉にからめたまとめの言葉がパネラーに求められました。
まず、田村氏が次のように語ります。
「使える人より面白い人というコンセプトについて語りましたが、われわれが面白い人というとき、どうしてもビジネス・イノベーションを起こせるクリエイティブな人を想定しがち。でも、ある障害者の作業所を見学したとき、お菓子の袋詰めをスタッフとメンバーが一緒になって実に楽しそうに作業しているのを見て、蒙を啓かされた気がしました。自分がクリエイティブ至上主義に陥っているということに気づかされたのです。仕事というのはしかつめらしい顔をしてするものではなく、楽しんでやるもの――そう、教えられた気がしました」
次に趙氏が次のように述べます。
「人間一人ひとり顔が違うように、個性もそれぞれまちまち。ワーカー一人ひとりが全然“違う”ということに企業が気づきはじめています。その多様性を生かしていくのが企業の役割。多様な方々をどうお迎えするのか――それを企業が考え始めるべき時期が近づいてきている気がします」
趙氏のいう「多様な方々」の中にはもちろん、障害者も含まれます。労働の場でのワークスタイルの変化は、まだ緒に着いたばかり。でも、障害者にとっては今後の展開に大いに期待が持てる――そんな実感を得ることのできたパネルディスカッションでした。
「2020 年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」11/13(月)まで開催中!
会場:渋谷ヒカリエ 8F「8/(ハチ)」
時間:11:00-20:00 (最終日は 16:00 まで)
サテライト会場:渋谷キャスト、ケアコミュニティ・原宿の丘、ハチ公前広場、代官
山 T-SITE、みずほ銀行渋谷支店、SHIPS 渋谷店、モンベル 渋谷店
URL :超福祉展公式ホームページ
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ライター Media116/超福祉展2017
2017年11/7(火)~11/13(月)まで渋谷にて開催される「2020 年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう 展」。 マイノリティや福祉そのものに対する意識のバリアを変えていく福祉の一大イベントをMedia116が密着取材します!
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