障がいがある人の「ここで働きたい」という思いを大切にしたい~原宿の障がい者が働くお花屋さん&カフェ「ローランズ」~
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ライター:Media116編集部
お洒落な家具店や洋服店が点在する原宿の静かな通り沿いに、今年の5月にオープンしたお店「ローランズ social flower & smoothie shop」。店内にはお花屋さんとカフェが併設されていて、お花をモチーフにしたカラフルなスムージーや、食べられるお花を使ったオープンサンドなどの軽食も楽しめるのが特徴です。
そしてこのお店にはもう一つの特徴が。実はこのお店は就労継続支援A型の事業であり、メインで働くスタッフの大半が障がい者です。そこで今回、オーナーの福寿満希(ふくじゅみづき)さんにお話を伺い、お店を開店するまでのエピソードや働いているスタッフの方たちについて、今後の展望などを教えていただきました。
障がい者がメインで働くお店を開店しようと思ったきっかけ
--福寿さんは現在3店舗のフラワーショップを出されていますが、就労継続支援A型の店舗は今回で2店舗目ということで、障がい者雇用に取り組むことになった背景を教えてください。
福寿さん)私は学生時代に特別支援学級の教員免許を取得しています。教育実習でお世話になった教育の現場では当時、3〜4人の生徒に1人の先生がついていて、もちろん支援が必要であるためだと思うのですが、自分が思っていた以上に教育環境は充実していました。ところが、教育体制や環境の整備に比べ、卒業後の就職先が少ないという課題があることも知りました。
そのような経験から、私には将来起業したいという思いがあったので、『障がいを持つ人たちに働く場を提供できたらいいな』と考えるようになりました。それと同時に、障がい者雇用はこれからもっと開拓していけるジャンルだとも感じるようになりました。
一般的に、障がい者の就職先は「暗い・狭い・遠い」場所が大半なことに加え、低単価の内職的な作業も多いと聞きます。でも、少なくとも私の見てきた障がいがある方々にできることはもっとたくさんある。環境さえあればもっと能力を伸ばしていけるはずだという確信がありました。せっかく力を持っているのに、限られた仕事しかできないのはもったいないと思っていたんです。
その後、もともとお花が大好きだったこともあり、フラワーショップ「ローランズ」の1号店を川崎にオープンしました。そして、2号店は念願でもあった就労継続支援A型という形で駒込に出店。今回の原宿店は、これまでの出店経験を活かす一方で初めての挑戦も多く、本当に諸先輩方をはじめたくさんの方々のお力添えをいただき、形になったお店です。
地域に根付くフラワーショップとスムージー屋さんを目指して
--こちらの原宿店は「ローランズ social flower & smoothie shop」という店名の通り、お花屋さんとスムージーショップが併設されているのが最大の特徴ですね。今回の出店にあたり、どのような経緯で、どんなことを準備されたのでしょうか?
福寿さん)まず第一に、先ほどお伝えしたような「暗い・狭い・遠い」イメージを払拭した職場環境を目指し、できるだけ都心型で、スタッフ一人一人の能力を伸ばせるようなお店にしたいと考えました。
お花屋さんとスムージーショップを組み合わせるアイデアは、原宿という場所ありきで考えたものです。これまでの経験上、お花屋さんが地域に根付くには時間がかかると感じていましたし、これだけの広さがある物件のすべてをお花屋さんにしたとして、果たして採算が取れるだろうかという懸念もありました。
そこで、お花屋さんを支える事業として、お店に足を運んでいただくきっかけとなるような事業体を合わせようと考えました。以前、日々出入りしていたビルの目の前にスムージーショップがあって、そこからヒントを得て、お花とスムージーのショップにすることにたどり着きました。。
当店のスムージーは、1からレシピを開発したオリジナル商品です。すべてお花がモチーフになっていて、カラフルなお花屋さんのディスプレイカラーを意識してラインナップしています。例えば、「レッドミックス」はあじさいの花のカラーリングで、紫キャベツの色がベース。もちろん無着色で、野菜やフルーツ、食べられるお花のみを使って色を表現しています。
--オープンから1ヶ月が経過しましたが、当初の狙い通りだったことや想定外だったことなど、感じていることを教えてください。
福寿さん)お花について、思っていたよりもギフトで購入される方や、ご自宅用に買って行かれる近所の方が多いエリアだということがわかりました。一方で、法人のギフト需要がまだまだこれからという感じなので、まずはお店の存在を知っていただくことから始めていきたいです。
もっと気軽に入っていただくきっかけ作りを検討しています。また、カフェはテイクアウトが中心で、席に座ってゆっくり過ごされる方が想定よりも少ないので、店内をもっと気軽に活用頂くためにどうすればいいかも考えているところです。
技術や経験よりも「ここで働きたい」という気持ちを重視
--こちらのお店で働いているスタッフの皆さんは障がいのある方たちと聞いていますが、募集方法や採用基準はどのようにされていますか?
福寿さん)このお店では、現在15名の障がい者の方たちがスタッフとして活躍しています。人数的にはお花屋さんとカフェで半々くらいです。平均年齢は33歳くらいで女性が中心です。加えてサポートする役割の職員が3名在籍しています。
雇用形態はパートタイマーの時給制で、最低賃金以上を保証しています。ハローワークの求人を見て応募してくださる方がほとんどですね。採用基準としては、応募時に経験や技術があるかどうかは問いません。経験よりも大切にしているのは、ここで働きたい理由や気持ちがあること。そして人柄を重視しています。
担当いただく業務としては、接客はできる人と苦手な人がいるので、得意な人になるべく接客を担当してもらうようにしています。接客以外では、例えばカフェのバックヤードでフルーツをカットするなどの仕込みをしてもらったり、お花屋さんでは環境整備として、お客様を迎えるためにとても大切なディスプレイを常に綺麗に保つという業務などをお願いしたりしています。
--スタッフの皆さんは、どのような障がいをお持ちの方が多いのでしょうか?
福寿さん)精神の障害と向き合っているスタッフが多いです。採用時にフェイスシートへご記入いただき、ご自身の障がいへの理解度や、どれくらい自分の言葉で説明できるかを確認させていただいています。それをベースに、どのようなところに配慮して仕事を進めていくべきかを検討します。
週5日の安定出勤を原則としていて、それが難しい場合は例えば週3回からスタートし、いつまでに週4回、週5回へ増やして行くのか、最初に目標を立てていただきます。働くシフトは希望に応じて早番・遅番を設定しています。
皆さんそれぞれ目指すところが違っていて、ここをステップに一般就労を目指す方もいれば、とにかく今の生活を安定して長く続けたいという方もいらっしゃいますね。
まずは安定した出勤をすることが大切なので、覚えるスピードは多少ゆっくりで大丈夫です。仕事は楽しいこともあればつらいこともたくさんあるし、それを全部含めて仕事だと思うので、つらいことがあれば、そこから何が学べるのか一緒に考えていきましょうと日々お伝えしています。
仕事の失敗から学ぶという経験もしてほしい
--福寿さんが障がいのあるスタッフと接する上で大切にしているのは、どのようなことですか?
福寿さん)大切にしているのは「手は離すが目は離さない」というスタンスです。これは日本財団で障害者就労支援「はたらくNIPPON!計画」を進めている竹村さんの言葉です。私もその通りだと思っていて、今までの福祉のあり方というのは、手を差し伸べすぎていたと思うんです。失敗しないように守りすぎた結果、自立を妨げてしまうのはもったいないことです。
だから「失敗させないように」ではなく「失敗も含めて経験して欲しい」。失敗を学びに変えていくという経験をしてもらいたいと考えています。少なくとも最低賃金以上を生み出せる方たちを採用しているので、どんどん挑戦して、経験を積んで、一緒に働く力を高めていきたいと思っています。
現代は働き方が多様化している中、障がいのある人の働き方というのはまだまだ選択肢が少ない状況です。再び竹村さんの言葉をお借りすると、今までは障がいありきの仕事が中心で、障がいに合わせて仕事のレベルを下げていたのではないかと。
私はそんな仕事の入口を変えたいと思っています。障がいに合わせて仕事を用意するのではなく、仕事ありきで適切な人材を配置する。そして、福祉を売りにせず一般市場で勝負していきたい。そのように考えています。
--オープンから現在に至るまで、スタッフの皆さんにはどのような変化が感じられますか?
福寿さん)精神疾患の方の場合、「以前の職場では自分を必要とされていなかった」とか「自分の存在意義がわからなかった」と話すスタッフが多いように思います。でも「ここに来て自分が必要とされている感覚がとても嬉しい」「仕事をする自分が誇らしい」といった言葉が聞けるようになりました。
また、一般就労で心を許せる仲間を作ることが難しかったり、理解してくれる人がいなくて辞めてしまったり、引きこもってしまったり…という話もよく聞くのですが、ここには悩みを共有できる仲間がいて、障がいの配慮を考えられる職員もいます。
だから、一般的には「それは甘えなんじゃないの?」と理解してもらえないようなこともわかってもらえる。そうやって、話し合える、相談しあえる環境があることで、「精神的な安定が得られている」といった声も頂いています。「なかなか実現しなかった安定出勤がここならできる」と言ってくれるメンバーもいるので嬉しいですね。すでに安定出勤できている人、安定に向かっている人も増えてきています。
原宿にある花屋さんとして認知されるように
--先ほど「福祉を売りにせず一般市場で勝負したい」とおっしゃいましたが、具体的には将来の展望としてどのようなことをお考えですか?
福寿さん)やはり福祉を売りにしてしまうと、それに興味のあるお客様だけになってしまいます。なので、商品力やサービス力で認めていただけるお店にしたいですね。「あそこは障がいのある人が働いているお店」ではなく、あくまで「原宿にあるお花屋さんとスムージーショップ」と認識していただくのが目標です。
そのための新たなチャレンジとして、ランチメニューの提供を近日中にスタートする予定です。この周辺では、ランチの食べられる場所が意外と少ないことがわかったので、ここでランチを始めることでテイクアウト中心だったカフェの現状を、少しでも変えていけたらと考えています。次のステップが見えてきたという感じですね。
編集後記)
「ローランズsocial flower & smoothie shop」のオープン後、HNKのテレビ番組でお店が紹介されたことがきっかけで、障がいをもつ方の親御さんからの問い合わせが増えているそう。障がいのある方たちにとって、今までなかった「お花屋さんで働く」という選択肢。そこに魅力を感じている人がそれだけ多いということなのでしょう。福寿さんのような考えを持つショップオーナーが今後も増えること、そして「障がい者だから雇用する」という障がい者雇用のあり方そのものが変わっていくことを願って止みません。
プロフィール
福寿満希(ふくじゅ・みづき)さん
順天堂大学卒業後、スポーツマネジメント会社に勤務。その後、フラワー業界に転身し2013年2月、株式会社ローランズ設立。2016年2月、障害者のスタッフがメインで働く就労継続支援A型の店舗を運営することを目的とした一般社団法人ローランズプラスを設立。
ローランズ公式サイト
はたらくNIPPON!計画公式サイト
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