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目に見えない発達障害と、絵本『りゆうがあります』

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ライター:松下隼司(まつしたじゅんじ)

大阪の公立小学校で教師をしている松下隼司と申します。教員22年目、2児の父親です。
日々、授業をしたり、休み時間や給食や掃除の時間などを共に過ごしたりと、1日の大半をたくさんの子どもたちと一緒に過ごしています。
また絵本や教育書をつくったり、Voicyというネットラジオのパーソナリティをしたりしています。

教室にいる子どもたちは同じ学年・同い年ですが、一人ひとり発達段階や特性が違います。
教師として、子ども一人ひとりの実態を理解し、それぞれの子どもに合った授業や対応をすることを心がけています。
でも、実際は、上手くいかないことがたくさんあります。30人以上の子どもたちを目の前に余裕がなく、子どもの不適切な言動についカッとなって感情的に叱ってしまうこともあります。

【1】保護者から手渡された、ヨシタケシンスケさんの絵本『りゆうがあります』

 今から10年ほど前、担任する親御さんから、
「先生、よかったらこの絵本を読んでください。」
と手渡されました。その絵本は、ヨシタケシンスケさんの絵本『りゆうがあります』でした。

表表紙
『りゆうがあります』ヨシタケシンスケ作・絵(PHP研究所)

 絵本には、鼻をほじったり、爪をかんだり、貧乏ゆすりをしたり、洗った手をハンカチで拭かなったり、さまざまな癖がある子どもたちが登場します。私が担任の先生だったら、
「汚いから、やめなさい!」
「危ないから、やめなさい!」
と絶対に強く注意して、やめさせます。
 でも、この絵本『りゆうがあります』のタイトルにもなっているように、その癖にはその子どもなりの理由があるのです。大人が思い浮かばないような理由、許容できないような理由が楽しく描かれています。

 20代の若手教師だった頃、尊敬する先輩教師から、
‶子ども理解″は、子どものことを理解するという意味だけれど、教師が子どものことを
 どう理解しているかということだけでなく、‶子ども自身が自分のことをどう思っているかを理解すること″です。」
と教わりました。
 絵本『りゆうがあります』を読んで、私は子どもの言動を、教師側からの視点でしか理解しようとしていなかったことに気が付かされました。なぜそんな言動をするのか、子どもなりの理由を知ろうとしませんでした。
 教師になったばかりの頃は、特性のある子どもの言動に理由が分かりませんでした。だから、「なぜそんなことをしたのか」と言動の理由や原因を知ることに、とても時間がかかっていました。でも、教師として経験を積むにつれて、その時間がだんだん短くなっていきました。自分の教師経験から「たぶん」の理由を当てはめて、勝手に理解したつもりになってしまったのです。

【2】目には見えない発達障害の子どもたちの笑顔  

教室にはさまざまな障害がある子どもがいます。その中には一見、まわりから見たら障害があることに気づかれにくい子どももいます。例えば、ADHDやLDやASDです。衝動性や多動性、不注意傾向(1つのことにとても集中する)、こだわりが強い子どもの言動は、自分勝手でまわりにとって迷惑だと思われがちなのです。「授業や集団生活・集団行動の邪魔」「わがまま」「マイペース」と思われがちです。
しかし、これらの言動には、子ども1人ひとりに理由があるのです。そこで担任として、学級の子どもたちにこのことを伝えましたが、どうしても小難しくなったり、抽象的になったりしました。

 絵本『りゆうがあります』を保護者に借りた翌週、教室で読み聞かせをしました。子どもたちの反応に驚きました。これまでの私の拙い話とは正反対でした。
「あっ、俺と同じや~。分かる~。」
「これって、〇〇さんと似てる~。」
「じゃあ、〇〇さんにも何か理由があるんかな~。」
と、どんどん子どもたちでお互いの特性の理解にまで話し合いが進んでいきました。発達障害の子どもも、そうでない子どもも笑顔で、自分やまわりの友達の特性とその理由を考えるようになりました。以前は、お互いの違いに興味をもたえせることすらが難しかったのにです。でもこの絵本『りゆうがあります』の楽しくユニークな描写が、障害の理解・相互理解の壁を取っ払ってくれました。

裏表紙

それ以来、自費で絵本『りゆうがあります』を購入し、学級文庫に置くようになりました。また、障害の理解に関する絵本や・いじめに関する絵本を購入するようになりました。現在、自分が担任する教室の学級文庫に、100冊以上の本を置いています。本の種類はさまざまですが、特に絵本が多いです。休日、本屋さんに行って、担任する子どもたちの顔を思い浮かべながら絵本を選んでいます。

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ライター 松下隼司(まつしたじゅんじ)

・大阪市立豊崎小学校教諭 ・絵本『ぼく、わたしのトリセツ』『せんせいって』 ・教育書『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』『教師のしくじり大全』 ・Voicy(無料のネットラジオ)のパーソナリティ  https://voicy.jp/channel/4155 ・第20回読み聞かせコンクール朗読部門で県議会議長賞、自由部門で教育委員会教育長賞を受賞 ・令和4年度 文部科学大臣優秀教職員表彰を受賞 ・教科書編集委員

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