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対話が拓く、障がい学生の新しい支援のかたち ー NPO法人ディーセントワーク・ラボ「ableto」

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ライター:Media116編集部

「障がいをオープンにすべきか分からない」「社会経験の機会がない」―社会に出て働くことに不安を抱える障がい学生は少なくありません。NPO法人ディーセントワーク・ラボ(以下DWL)が2025年6月に開始した対話型トレーニングプログラム「ableto(エブルト)」は、対話を通じた自己理解と仲間との出会いで、学生たちの一歩を後押ししています。10年間の障がい者支援の知見を活かした、新しい支援のかたちを取材しました。

弟の姿から学んだ「働く」ことの意味

DWL代表理事の中尾文香さんは、5歳下の弟が生後8ヶ月で転倒事故により知的障がいと身体障がいを負ったことをきっかけに、幼い頃から障がいのある人々と関わってきました。

インタビューに応じてくださった中尾さん。DWLのこれまでの歩みを熱く語ってくださいました
▲インタビューに応じてくださった中尾さん。DWLのこれまでの歩みを熱く語ってくださいました

「母は長い間、弟のことを『かわいそう』と言っていました。でも、弟が働き始めて給料を得るようになってから、その言葉を言わなくなったんです」

社会の中で役割を持ち、自分で稼ぐことの意味。中尾さんは、働くことが本人にとっても家族にとっても、どれほど大きな意味を持つかを目の当たりにしました。

大学で福祉を学び、障がい者運動にも関わった中尾さんは、「すべての人のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現」を理念に掲げ、2009年から障がい者の就労支援に取り組んできました。

equalto(イクォルト)での10年が教えてくれたこと

活動の出発点は、就労継続支援B型事業所での工賃向上プロジェクトでした。デザイナーやパティシエといった専門家と協働し、デパートで販売できる高品質な商品づくりに挑戦。これが後の福祉事業所ものづくりブランド「equalto(イクォルト)」へと発展します。

「最初は反対もありました。でも、自分たちの商品がデパートで売られる姿を見た時、それまで無気力に見えていた人が変わっていったんです」

10年の実践から見えてきたのは、「いい学習経験を積むこと」と「目標に向かってチームで取り組むこと」の重要性でした。特に発達障がいのある人は、独自の主観フィルター(メンタルモデル)を持っているため、周囲との理解のズレが生じやすい。でも対話を通じて相互理解を深めることで、本人も周囲も、より良い関係性を築いていくことができます。

「この知見を、社会に出る前の学生時代から活かせないか」―そんな思いから生まれたのが、abletoです。

「ここだからこそ打ち明けられる」安心の場

abletoの中核をなすのが「対話型サロン」です。プログラム担当の奥山響さんは、試行錯誤を重ねながら、3部構成のスタイルにたどり着きました。

abletoについて説明してくださった奥山さん。インタビューに快く応じてくださいました
▲abletoについて説明してくださった奥山さん。インタビューに快く応じてくださいました

第1部は対話を軸にしたワークショップで、自己理解を深めていきます。第2部は学生同士の情報交換会。第3部では企業の社会人の先輩と「フラットトーク」を行います。

「同じワークをやっても、その日のコンディションや対話する参加者によっても、自分の捉え方や発言内容が変わる。その気づきが大切なんです」

参加者からは「ここだからこそ打ち明けられる雰囲気がある」「自分だけではないと知れて安心できた」といった声が寄せられています。

印象的だったのは、参加学生から「異なる境遇(大学や学年、障がい種別)の人と悩みや価値観を素直に共有できた」というフィードバックをもらったこと。「abletoが新たな繋がりを創出できたことが嬉しかった」と奥山さんは語りました。

オンラインで行われる対話型サロンの様子。安心・安全な場で、学生たちが自分の思いを語り合う
▲オンラインで行われる対話型サロンの様子。安心・安全な場で、学生たちが自分の思いを語り合います

誰もが参加できる工夫

abletoの特徴は、参加対象の幅広さです。障がい者手帳の有無や障がい種別を問わず、「社会生活で何らかの困難さを感じている」学生や若者なら誰でも参加できます。大学生に限らず、第二新卒・中退者など幅広く対象としています。

オンライン開催のため、全国どこからでも参加可能。聴覚障がいのある学生に対する情報保障や、発達障がいのある学生には事前に資料を共有するなど、個別の配慮も徹底しています。

「カメラオフでも、発言しなくてもいい。安心・安全な場であることを何より大切にしています」と奥山さん。

大学の就職支援課や障がい学生支援室からも「こういう場で発言ができると思わなかった」「参加後にお礼を言ってくれて驚いた」といった報告が寄せられています。

カフェで広がる対話の輪

2025年2月には、東京都目黒区に実店舗のカフェがオープン予定です。平日の日中に営業し、対話型サロンのリアル版として、学生・企業・地域の人々が集まる場を目指します。

「カフェでは、必ずしもワークをやる必要はありません。いろんな人がフラットに集まって、自然な対話が生まれる。そんな場にしたい」

2025年2月オープン予定のカフェ
▲2025年2月オープン予定のカフェ。対話型サロンのリアル版として機能します(※写真はイメージです)

オンラインでは、公式LINEを通じた情報発信も開始。11月からは「対話型サロンフリートーク会(通称、フリ会)」として、より自由な雑談の場も設けています。

対話が持つ「振り返りの力」

中尾さんは、対話の力をこう語ります。

「対話をすることで、自分の経験を客観的に見ることができます。『できなかった』で止まるのではなく、物語として編集し直すことができる。それを周りの人と一緒に紡いでいくことで、新しい気づきが生まれるんです」

一般的な就職支援やキャリアセンターとの違いは、「支援する側・される側」という関係性ではなく、運営側も学ぶ参加者の一人であること。対等な関係の中で、互いに学び合うスタイルが、abletoの強みになっています。

長年プロボノとしてDWLを支援するアクセンチュアの小川真由さんは、「社会人として参加しても、心がデトックスされる。翌日も頑張ろうという気持ちになれる場です」と話します。

時代が求める「インクルージョン」の実践

法定雇用率は2024年に2.5%、2026年には2.7%へと引き上げられます。企業での障がい者雇用が拡大する一方で、「採用したが定着しない」という課題も顕在化しています。

「コロナ禍で働き方が見直される中、多様な人が成果を出すにはどうすればいいかが問われています。実は、特例子会社やB型事業所では、凸凹の人たちを組み合わせて成果を出す実践が既にありました。今、その知見が社会に必要とされているんです」

中尾さんにとって、今は「答え合わせ」の時期だといいます。10年間取り組んできたことが、時代に求められている。その実感が、新たな挑戦への原動力になっています。

「第3の居場所」として

奥山さんは、就活に悩む学生たちにこう呼びかけます。

「abletoは、大学やサークルとも違う『第3の居場所』になれたらと思っています。自分が求めていたものに気づけるヒントが、きっと見つかります。まずは気軽に覗いてみてください」

対話を通じて自分と向き合い、仲間と出会う。そこから生まれる小さな一歩が、障がい学生の未来を変えていきます。

■雑談も相談も未来のはなしも。対話型サロン「フリートーク会(通称、フリ会)」参加者募集中です!

参加申し込みやご質問、興味のある方は下の2次元コードから。
プロジェクト「ableto」公式LINEより「フリ会情報希望!」と送信ください♪
エブルト公式LINE

■直近のイベント情報!
日程: 12/23(火)
時間: 18:00-19:00
形式: オンライン(ZOOM)
参加費: 無料

【問い合わせ先】
NPO法人ディーセントワーク・ラボ「ableto」
公式Facebook:https://www.facebook.com/ableto.DWL
Email:ableto@decentwork-lab.org

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ライター Media116編集部

障がいのある方のためのライフスタイルメディアMedia116の編集部。障がいのある方の日常に関わるさまざまなジャンルの情報を分かりやすく発信していきます。

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