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「靴を媒体に社会を変える」オシャレな下肢装具に込められた意味とは
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ライター:Media116編集部
みなさんこんにちは!Media116編集部です。今回は自身が左半身麻痺の障がい当事者であり、個人事業主として下肢装具にも履けるスタイリッシュな靴のブランド「Mana'olana(マナオラナ)」を立ち上げた布施田祥子(ふせださちこ)さんを取材しました!闘病生活からブランドを立ち上げるまでの想い、そして彼女が「オシャレ」にこだわる理由を伺いました。
これってホントに下肢装具にも履ける靴?疑う程のオシャレさ
これらは「Mana'olana(マナオラナ)」というブランドの下肢装具にも合わせられるスタイリッシュな靴です。
こちらは昨年10月に販売をしたパンプスです。女性用1パターン5色展開。現在、受注はしていないとのことですが、今秋には女性用のストラップシューズや紐靴、スーツに合う男性用のビジネスシューズも販売予定だと布施田さんはおっしゃいます。写真を見て下肢装具に履ける靴のイメージが変わった方もいらっしゃるかもしれませんね。
これはご自身が左半身麻痺という障がいがある布施田祥子(ふせださちこ)さんが開発しマラオラナというブランドで販売している下肢装具にも合わせられるスタイリッシュ靴です。元々ファッション関係の仕事をしてきた布施田さん。障がい者が使用する装具にも履ける「オシャレな靴が欲しい」という想いで個人事業としてブランドを立ち上げられました。
今回の取材記事のキーワードは「オシャレ」です。記事を読み終える頃には布施田さんがそのワードに込めた熱い想いをお分かりになって頂けることでしょう。
「オシャレ」が自分と外の世界とつなげてくれる
「障がい者が身に着けるものはオシャレなものが少ないと感じています。障がいがあることで自分の中のオシャレさえできなくなった方も多く見てきました。オシャレなものを身に着けたい!そう思っていても言うことができない環境があるのだと思います。でも私は黙ってはいられない。自分がオシャレだと思う靴ひとつ履けないことすら嫌です。」
布施田さんはスカートが好きだった女性が障がいを負ってから長ズボンしか履くことができなくなったという話をしてくださいました。装具をしていることが恥ずかしい。加えてボテッとした靴が恥ずかしい。そのせいで外に出ることをためらっていたのだと言います。
「靴ひとつでも、また外に出たいと思うきっかけになるんです。」そう布施田さんは続けます。
マナオラナの商品は「従来の装具用の靴のように歩行時の安全性や安定感を重視した靴ではない」と布施田さんはおっしゃいます。マナオラナの靴はデザイン性を重視した靴で基本的には市販されているパンプスと同じです。装具用の靴と比較すると機能性はあるものの市販されているパンプスのようにスマートな作りである分不安定に感じる人もいます。その緊張感こそが「オシャレ」に必要なことだと布施田さんは語ってくれました。
マナオラナの靴にかける思いやコンセプトをひとりひとりに説明しながら対面販売をしていると言う。ちなみに布施田さんの靴を購入希望されている方は入学式や冠婚葬祭で履く方が多いようです。いわゆる「ハレの靴」なのです。実際、マナオラナ様の商品には本革が使われているため、手入れが必要な手間暇のかかる靴なのです。
ドアを開けることで拓ける未来
「何かひとつキラキラするもの、自分の好きなものを身に着けられるだけで、外に出ようかなと思う気持ちが生まれると思っています。私は商品を通じてその心の後押しをしているつもりなんです。」
一歩外に出ることの重要性を布施田さんは説くきます。
「(家に)こもっていると何も変わらない。外に出るといつも見ない景色や様々な人…考え方を変えるきっかけが生まれると思うんです。気分も変わったり、何か新しい出会いがあるかもしれない。障がいがあることで出不精になったり、外に出づらかったりすることも事実です。外に出ることも苦労を伴うと思うけど、どこかへ行きたい、何かをしたいと強く思ったら誰かのサポートを受けたり、何らかの手段でいつかその思いは叶います。」
また、布施田さんは、外の世界を見て、触れて、新しい世界や自分自身の未来を切り拓いていくことが自分らしく生きる為にも重要だとも言います。
布施田さんにとっては障がいがあることを悔やむ時間よりも、外に出て次はどんな新しいことや楽しいことに出会おうかと考える時間のほうがよっぽど重要なんだという力強いメッセージを本インタビューを通じて強く感じました。
恨むことより前を向くこと
布施田さんが障がいを負ったのは2011年のことでした。出産の8日後の夜中、身体に違和感を感じたといいます。医師や看護師に訴えたかいもなく、待機を余儀なくされ、その後布施田さんは12日間意識を失いました。待っていたのは脳出血との診断でした。意識を取り戻して医師から告げられたことは「寝たきりになる可能性もある。リハビリで良くなっても車椅子生活になるだろう。」とのことでした。
もっと早く処置をしてもらえていたら…そんなもやもやした感情とは裏腹に布施田さんのお母様は前を向いていたといいます。その時お母様は布施田さんにこう声をかけたそうです。
「死んだわけじゃない。娘も元気に生まれてきたんだから、今は誰かを恨むことに時間を費やすよりも、一日でも早く元気になってその手で娘を抱けるようになることが何よりも娘の為になるんだよ」
布施田さんの今に至る前を向く力強い姿勢の源泉は、お母様のこの声掛けにあると言います。
一生車椅子だと医師から告げられたのですが「自分で子育てをしたい。元気になって娘を抱いて歩けるようになりたい。家族みんなが笑顔になるために、寝ている場合じゃない!」そう強く思った布施田さんは、必死にリハビリに取り組まれました。
あの時のお母様の言葉通りに、早期にリハビリに励んだことが今の回復につながっていると思われているそうです。
「なぜ自分ばかり」彼女を襲った病魔
その矢先、持病の潰瘍性大腸炎が悪化し1年半程の間ほぼ寝たきりの状態が続きました。貧血、不眠、立てない、歩けない…ノイローゼ状態になり、体重も12キロ超減少しました。その時にはクローン病になっており、大腸の全摘手術を行わざるを得ませんでした。同時に人工肛門となりました。
「なんで私ばっかりこんな思いを!」
そう母に泣きついたこともあったそうですが、その時に布施田さんのお母様はこう諭したそうです。
「苦しいのは自分だけだと思ってしまいがちだけれど、皆それぞれ抱えているものがある。」
そんなお母様の言葉に布施田さんはとても救われたと言います。
それから物事は捉え方次第で感情が変わり、行動が変わる。行動が変わると未来が変わる…そう思えるようになったそうです。
「悩みは自分が成長するために与えられた課題であり、それをクリアした時には自分が成長しています。自分にとっての課題が、たまたま病気だっただけです。」
布施田さんは明るくそう答えてくれました。
「ポジティブじゃなくていい」あるがままの自分を受け入れること
「よく、なんでそんなにポジティブなんですか?と言われるけど、ポジティブなわけじゃないんです。自分が前向きだと思ったこともありません。」
その言葉に私は驚きました。お会いする前も取材中も布施田さんが人一倍「ポジティブ」な方だと思い込んでいたし、それこそが彼女の原動力だと想像していたからです。
「皆が皆いつもポジティブでいるわけじゃないですよね。ネガティブな部分だってあるわけで。ダメなとこがあってもいいんです。必要なのは前向きになれない自分を認めて、その時にできる最大限のことをして自分を慰めることです。あるがままの自分を受け入れて、無理にポジティブになろうとしないことが大切だと思います。」
実際には「ポジティブ」その一言で彼女を表すことはできませんでした。自分の弱い部分も含めてすべての自分を受け入れる。それこそが布施田さんの芯の強さの源泉だということがとてもよく分かりました。
障がい者・健常者関係なく一緒に買い物ができるセレクトショップに
布施田さんは今後の目標について次のような言葉で締めくくってくださいました。
「靴から始まり社会全体を変えたい」
布施田さんはご自身のブランドをただの「靴屋」ではないといいます。目指すのはオシャレな下肢装具にも合わせられる靴を販売することでも、それを多くの人に履いてもらうことでもありません。靴というものを媒体にひとりひとりの、そして社会の意識を変えていこうとしているのです。
そんなマナオラナが主催するイベントが6月8日(土)にも自由が丘で開催されます。
※イベント詳細はこちら
マナオラナや出展者のサービス&展示品のご紹介のほか、靴の最新モデル(サンプル)のお披露目、マナオラナのオリジナル・ステッキストラップの販売、セミナー、ワークショップなどが盛り込まれています。当事者だけでなく、専門家からの情報や意見交換できる場でもあるそうです。布施田さんと実際にお話できる機会もあるかもしれませんね。
また、Mana’olana(マナオラナ)には、誰でも入会可能な有料サポーターズクラブ、「Doors」があります。「障がい当事者のみなさんにも、選択肢のある日常が当たり前になる社会をつくる」。そんな活動をサポートされたいという方はこちらから。
この機会に是非一歩「外へ」足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。
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