引きこもりの時代のパジャマを着てステージへ 「こわれ者」の自分を救った自助グループの存在
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ライター:飯塚まりな
「ぼくたちの声は世間に届いているのか」
引きこもりの時代に着ていたパジャマを着用し、ステージでイベントをする月乃光司さん。
その半生は生きづらさの連続。高校入学時から、対人恐怖症・醜形恐怖症、引きこもり生活、アルコール依存症、自殺未遂……追い詰められ続けた過去があります。
精神科病棟に3回入院。月乃さんを救ったのは、同じ境遇の人たちが集う自助グループ。自分の経験を素直に話して、励まし合える仲間の存在は、人生を明るく照らしてくれました。
31歳のときに就職し、現在は妻と息子・猫一匹と幸せに暮らしています。
自らが始めたイベント「こわれ者の祭典」は病気の体験発表やパフォーマンスを通して、全国で開催。依存や生きづらさを抱える人たちのことを認知してほしいと、世間に届ける発信を続けてきました。
「今でも生きづらさはあるけど、僕には帰る場所がある」
今回は、依存症を乗り越えた月乃さんと自助グループについてご紹介します。
「唇が嫌い」異常なコンプレックスとの葛藤

▲月乃光司さん
1965年、富山県生まれ。幼少期から、父と母が別居する複雑な家庭環境で育つも、社交的で明るい子どもだったと話す月乃さん。
しかし、高校一年生の時に自分の唇が異常に気になり出すようになりました。
「学校にいる間はずっと唇をかみしめて、休み時間は顔を見られないように一人で過ごす。そんな状態で友達はできず、いつも孤独でつらかったです」
卒業後は、一浪して埼玉の大学へ進学。さらに人と接する苦痛が強くなり、大学にはほぼ通えませんでした。
当時、新聞で「醜形恐怖症の人が増えている」という寄稿を読み、すがる気持ちで病院を受診。「醜形恐怖症」と診断され薬の投与が始まると、あれほど悩まされていた唇への執着が無くなり、医療の力にとても驚きました。
「仕事も彼女も手に入った!」薬と酒に溺れる毎日

▲断酒をして、今では体調を優先する月乃さん。
一見、病気が治ったように見える月乃さん。
その後、20歳から三年間はイラストレーターとして活動し、好きだった絵や漫画を描くことで注目されて、仕事を得るようになりました。東京に引っ越し、大学生の彼女と同棲するなど、充実した日々を送っていました。
しかし、いつも不安が付きまといます。
「楽しいこともありましたが、この頃は薬を飲まなければ人に会えず、お酒の量が増えていきました。でも薬とお酒のおかげで人と会話ができて、彼女までできる。やりたいことが、かなっていくように感じました」
しかし、夢のような時間は長続きしませんでした。彼女と破局して、ショックで仕事が手につかなくなり、実家へ戻ることに。母親との二人暮らしが始まり、アルコール依存症と引きこもり生活に突入しました。
母親と共依存に、悪い環境から抜け出せない
実家では二人の姉がすでに独立し、父親とはたまに顔を合わせる程度。「実家は気楽でありがたい」と思う一方、ここでも問題がありました。
当時、突然帰ってきた息子を見て、どことなく嬉しそうだった母親の様子を振り返ります。
「気付けば、親子で共依存して母親はイネーブラーでした。これは、アルコール依存症になっている人の世話を焼きすぎて、いつまでもアルコールを飲み続けられる環境を作ってしまう人のことです」
依存症に苦しむ息子に「立ち直ってほしい」と願いながらも、部屋を掃除し、居心地のよい環境を整えてしまう母親。こうした行動は、月乃さんだけに見られるものではなく、依存症の家族には「あるある」なのだとか。
その後、オーバードーズと自殺未遂を繰り返し、処置入院で絶望的な状態に。しかし、アルコール依存症の患者専門病棟に入院すると、自分と同じように苦しむ患者を見て「自分だけではなかった」と安心感を覚えました。
自助グループで改心「自分のロールモデルがいた」
入院生活中に、月乃さんはアルコール依存症の自助グループに参加しました。
「自助グループでは、当事者たちが自分の経験を順番に語ります。中には自分よりも、どん底な経験談を話してくれる人もいて、それでも今は笑顔で暮らしていると聞くと、いずれは自分もこうなれるんだと思いましたね」
前向きな未来像を描けた月乃さんは、27歳で断酒。以降、薬を投与したことはなく「自分のダメさ」を気楽に話せる場所を見つけたことが、一番の回復力でした。

▲自助グループは月乃さんにとって拠り所になっている
症状が良くなると、「早く社会復帰して働こう」と焦る気持ちでハローワークに通い、さっそく正社員で雇ってもらえる企業を見つけました。内定をもりい、自助グループの仲間たちに報告すると「絶対に辞めておけ」とすかさず助言を受けます。
「長年引きこもりだったのに、いきなり就職するのは厳しいと止められました。また精神的なダメージを受けて潰れてしまったら、次はもっと再就職が難しくなると言われたんです」
結果、仲間たちの言葉を信じて採用を断りました。両親はがっかりしましたが、まずはアルバイトから始めます。「1日2時間だけ働く場所を見つける」のアドバイスを受けて、近所のめがね屋でアルバイトを始めました。業務内容はめがねを拭くこと。しかし、たった2時間でも気疲れし、対人恐怖症で手が震えてしまいます。「やはり仲間の言うことは当たっていた」と実感しました。
その後はビルの清掃員になり、一年後には就職向けて職業訓練校へ通い始めます。ボイラー、危険物、電気工事士の資格を取得し、地場のメンテナンス会社へ就職できたのです。
31歳のときに、父親が勤める会社の子会社だったメンテナンス会社に転職し、現在に至ります。自助グループのおかげで、人と話すことに慣れていき、気付けば人前で話せるスキルが身に付け、営業ができるようになったと話す月乃さん。
「焦らずに、自助グループでしっかり自分と向き合った人の方が、断酒できている傾向にあるように感じます。いきなり社会復帰を目指すのではなく、一年ぐらい自助グループ活動に専念してから仕事を始める方がいいかもしれません」。
無理をするとふたたびアルコールに依存しがちに。そうならないためにも自助グループの存在は大切です。
月乃さんは現在も週2回、グループに通うことがルーティーンになっています。新しい参加者を見ると過去の自分を見ているようで、当時の心境を思い出します。
「いまの自分の立ち位置が見えるのも大事なこと。私の姿が、誰かの未来像になれれば嬉しいです」
共感できる場所を見つけることが救いに

全国にある自助グループ。対面だけでなく、朝6時から毎日オンラインで開催するグループがあります。
月乃さん自身も、「今日はやめておこう」「外に出たくない」と思うことが少なくありません。
しかし自助グループのように、弱みや痛みを共感できる場所が、どれだけ自分を癒すのか体験してほしいと話します。
「リモートならワンクリックで入ることができます。自助グループに参加することが絶対ではないですが、まだ参加したことのない当事者の方には、その一歩を踏み出してほしいのです」
取材日の夜は、渋谷のLOFT9Shibuyaで、月乃さんとアーティストたちによる朗読会でした。いまでは活動に賛同してくれる仲間たちと、自助グループの活動を情報発信しています。
「僕は、当事者の世界だけに固執しないことが大切と思っています。依存症の治療法や、自助グループに対する正しい知識を持てば、“あなたの近くで悩む人を救うことができるかもしれない ” そう思って活動を続けてきました」
イベント時には、自助グループの詳細を書いた用紙を配布するなど、細かい気配りを忘れない月乃さん。数々の試練を乗り越えて、今後も依存症を克服したロールモデルとして活躍されることでしょう。
こわれ者の祭典 [東京公演]

2026年10月11日(日)OPEN 12:00 / START 12:30
【会場】 新宿ロフトプラスワン
〒160-0021 新宿区歌舞伎町1-14-7 林ビルB2
TEL 03-3205-6864
もっと依存症を考えよう!
依存症は特別な人だけの問題ではありません。
アルコール、薬物、ギャンブル、摂食障害、クレプトマニア――その背景には孤独や生きづらさがあることもあります。
当事者、専門家、支援者が集い、依存症と回復について語ります。
「こわれ者の祭典」メンバーによるメッセージ・パフォーマンスもあります。
生きづらさを抱えるすべての人へ。依存症について、もっと深く考える一日です。
【ゲスト】
松本俊彦(国立精神・神経医療センター薬物依存研究部長)
風間暁(随筆家)
高橋悠(摂食障害・クレプトマニア(窃盗症)当事者)
雨宮処凛(作家・活動家・こわれ者の祭典名誉会長)
【司会】松本卓也(映画監督)
【ギター伴奏】タダフジカ
★こわれ者の祭典メンバー
月乃光司(アルコール依存症・引きこもり自慢)
Kacco(摂食障害・引きこもり自慢)
ゆみ(摂食障害・アルコール依存症自慢)
【料金】 前売 2,200円(+1D 600円)/当日 2,500円(+1D 600円)
前売チケットはLivePocketで発売!
https://livepocket.jp/e/sra89
【配信視聴チケット】 2,000円(ライブ配信+アーカイブ2週間配信)
配信チケットはツイキャスで発売!
https://premier.twitcasting.tv/loftplusone/shopcart/440995
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ライター 飯塚まりな
フリーライター/イラストレーター 近所の人から芸能人まで幅広いインタビューを行う。取材実績は300人以上。 フリーペーパーから始まり、現在はwebメディア、書籍、某タレントアプリなどで執筆。 介護・障がい者施設での勤務経験あり。「穏やかに暮らす」がここ数年のテーマ。
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