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先天性四肢欠損を描いた絵本『さっちゃんのまほうのて』

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ライター:松下隼司(まつしたじゅんじ)

大阪の公立小学校教諭の松下隼司です。教員23年目、2児の父親です。

今回ご紹介するのは、私が学級経営や道徳の授業でも、そして一人の人間としても、何度も何度も読み返しては涙し、勇気をもらってきた一冊、『さっちゃんのまほうのて』(著:たばた/出版:せいいち偕成社)です。

先天性四肢欠損を描いた絵本『さっちゃんのまほうのて』

絵本の表紙
https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784033304106

先天性四肢欠損で生まれたさっちゃんが、傷つきながらも右手の指がないという障がいを受けいれ、力強く生きるお話です。
この絵本の魅力は、単なる「感動ポエム」じゃないところです。子どもたちの心の奥底にある葛藤、そして親の覚悟が「本気」で描かれているところです。この絵本の魅力を、私なりの視点で紹介いたします。

1. 子どもの「生身の痛み」から逃げないリアルさ

この絵本の主人公、さっちゃんは生まれつき右手の指がありません。 多くの絵本なら、ここで「でも明るく頑張りました」と綺麗にまとめてしまいがちです。でも、この絵本は違います。

①「お母さんになれない」という絶望:
友達とのままごと遊びの中で、「指がないからお母さんになれない」と言われてしまうシーン。

②怒りと悲しみの爆発:
さっちゃんはお母さんに「どうして指がないの!」と泣きつきます。

この「どうしようもない理不尽さに対する子どもの叫び」を真っ向から描いています。ここが凄いです。大人が答えに窮するような問いを、絵本がしっかり受け止めているんです。

2. お父さんの言葉が放つ「リフレーミング」の魔法

私が教師として最も震えたのが、お父さんの言葉です。
泣きじゃくるさっちゃんに、お父さんはこう言います。

「さっちゃんの右手は、魔法の手なんだよ。お腹の中で指を作ろうとする力を、全部、元気に育つための力に変えたんだ」

このお父さんの言葉は、教育現場でいうところの「リフレーミング(視点の切り替え)」の究極の形だと思いました。 さっちゃんのお父さんは「欠けているもの」に目を向けるのではなく、「今、そこに命がある理由」として定義し直したのです。このお父さんの言葉で、さっちゃんは自分の手を「恥ずべきもの」から「誇らしいもの」へと変えていきます。

3. 「共生」を頭ではなく「心」で学べる

この絵本、実はさっちゃんだけの物語じゃないんです。 「お母さんになれない」と言ってしまった友達、それを聞いた周囲の大人たちの物語でもあります。

①「知らない」から傷つけてしまう。
②「知る」ことで優しくなれる。

そんな当たり前だけど大切なことが、押し付けがましくなく伝わってきます。私は学級でこの本を読むとき、「もし自分が友達だったらどう声をかける?」と子どもたちに問いかけます。すると、子どもたちは自分事として一生懸命考える。これこそが道徳の真髄です!

そしてこの『さっちゃんのまほうのて』は、子どもだけでなく、「自分に自信が持てない大人」にも読んでほしい一冊です。
コンプレックスや欠点だと思っているところも、見方を変えれば、自分自身がここまで生き抜いてきた「魔法の証」かもしれません。読み終わったあと、自分の手を、そして隣にいる人の手を、ぎゅっと握りしめたくなるはずです。

読み聞かせで心掛けていること

次に、わたしがこの絵本を子どもたちに読み聞かせるときに気をつけていることを紹介します。
1番大事にしていることは、「さっちゃん、大好き!」という気持ちになることです。読み聞かせのテクニックよりも、読み手の気持ちが、読み手の眼差しを優しくし、教室を温かい空気で包み込むからです。

1.【低学年の子ども】へのコツ:感情の「追体験」を大切に
低学年の子どもたちは、物語の主人公に自分を重ね合わせる天才です。さっちゃんの「悲しい」「嬉しい」という心の動きを、一緒に体験させてください。

①「間(ま)」をたっぷり取る
さっちゃんが「私の手、どうして指がないの?」とお母さんに聞く場面があります。ここは、すぐに読み進めず、少しだけ「沈黙」を作ってみてください。子どもたちが、さっちゃんの心の揺れをじっくり感じる時間になります。

②「お母さんの手の温もり」を声に乗せる
お母さんがさっちゃんの手を握るシーンは、最高に優しく、包み込むようなトーンで読んでみてください。子どもは、耳から「愛されている安心感」を受け取ります。

③読み終わった後、自分の手を「さすさす」する
「みんなの手も、さっちゃんの手も、世界に一つだけの魔法の手だね」と言いながら、自分の手を愛おしそうに撫でて見せてください。子どもたちも、自分の手を宝物のように感じてくれるはずです。

2.【高学年の子ども】へのコツ:言葉の「深み」を味わう
高学年の子どもには、「障がい」という言葉を超えた、「生き方」や「他者理解」の視点で届けるようにしています。子どもの高い思考力を信じて、あえて「考えさせる」のがコツです。

①あえて「淡々と」読む
高学年の場合、感情を込めすぎると逆に冷めてしまうことがあります。事実を丁寧に伝えるように、一言一言を噛み締めて読んでみてください。言葉そのものの力が、彼らの心に深く刺さります。

②「まほうのて」というタイトルの意味を問いかける
読み終わった後に、「なぜ、さっちゃんの手は『まほうのて』なんだろうね?」と、一言だけ投げかけてみてください。 「お母さんの愛が詰まっているから」「さっちゃんが前向きになったから」……正解はありません。子どもたちの中に生まれた「答え」を、まるごと受け止めてあげてください。

③「自分の弱さ」を認める強さを伝える
「さっちゃんが自分の手を好きになれたのは、周りの人の支えがあったからだよね。みんなも、誰かの『支え』になれる存在だよ」と、クラスの絆に繋げるメッセージを添えると、高学年の心にガツンと響きます!

3.効果アップのポイント
読み聞かせの前に、読み手が「さっちゃんの手の絵」を少しだけ大きくして見せるのもアリです(著作権に配慮しつつ)。 「今日は、この手が大活躍するお話だよ」とワクワク感を演出するだけで、子どもの集中力は増します。

この本を読み終わった後の家や教室は、きっと昨日よりも少しだけ「優しさ」が増しているはずです。そんな素敵な空間を作れるのは、他でもない、読み手自身です。

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ライター 松下隼司(まつしたじゅんじ)

・大阪市立豊崎小学校教諭 ・絵本『ぼく、わたしのトリセツ』『せんせいって』 ・教育書『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』『教師のしくじり大全』 ・Voicy(無料のネットラジオ)のパーソナリティ  https://voicy.jp/channel/4155 ・第20回読み聞かせコンクール朗読部門で県議会議長賞、自由部門で教育委員会教育長賞を受賞 ・令和4年度 文部科学大臣優秀教職員表彰を受賞 ・教科書編集委員

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