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ビジネスの場における多様性の実現 〜米国企業・障がい者グループの活動〜

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ライター:品川謙一

昨年夏のパラリンピック東京大会に合わせて、障がい者を応援し、共生社会実現を目指す国際ビジネスフォーラムDare to Overcome Tokyo(デア・トゥ・オーバーカム・トーキョー、以下DTO Tokyo)がオンライン開催され、主講師のジャスティン・グリーンさん(米国アクセンチュア障がい者従業員グループリーダー)の基調講演(*)には多くの反響がありました。そのジャスティン・グリーンさんが来日し、DTO Japanカンファレンス(2022年8月27日、上智大学にて開催)で講演されましたので、講演の要約をお届けします。

「部屋の中の象」を明らかにする

(*)昨年の基調講演に関する記事はこちら

ジャスティン・グリーンさん写真①

2007年の秋、わたしの個人的現実が一変しました。ナルコレプシー(特発性過眠症)と診断されたのです。最初はどうしてよいかわからず、ただ戸惑うだけでしたが、多くの医療従事者の方たちの助けと種々の薬や生活習慣の改善により、この特性とどのように付き合えばいいかを学び、困難を克服してきました。そのような障がいがあるひとりの人間としての歩みを通して、わたし自身が学んできたことがあります。それは米国でいう「部屋の中の象(みんながわかっているが見て見ぬ振りをしている問題)」を明らかにする役割が、わたしたち障がい者にはあるということです。

ここでいう「部屋の中の象」とは、「障がいがある人々は重要な存在であり、彼らは隠されたり、無視されたりするべきではなく、人生の全ての面において、他の人々と同等の参加機会をもつべきである」ということです。

米国では(おそらく日本でも同じでしょう)、初めて会った相手に対して、自分の医療的状態を話すことは普通ではありません。まして「部屋の中の象」に例えられるような大きな問題を話題にすることは、肯定的印象を与えるには不向きな手法だと言わざるをえません。そのような宣言は、ビジネスパートナーや同僚たち、時には家族との関係をも損なう可能性さえあります。

では、そのようなリスクを冒してまで、自己開示する意味が果たしてあるのでしょうか?
わたしの経験から言えることは、そのような自己開示を行った時、この部屋にいる(あるいはオンラインで参加している)誰かが、「(こんな困難な問題を抱えているのは)わたしだけじゃなかったのだ」と知るということです。今まで何回もそのような事例を経験してきました。ですからわたし自身は、そのような方が一人でもいる可能性があるなら、自分がそのリスクを負う価値はあると思っています。

人生を1%よくするために

ジャスティン・グリーンさん写真②

自分の人生を振り返ってみると、わたしは非常に困難な子ども時代を過ごしました。それで、何とか人生をよくするために13歳で皿洗いの仕事に就きました。その時以来ずっと、わたしは与えられた仕事にベストを尽くすことをモットーとしてきました。でも人生はそんなに簡単ではありません。2007年にナルコレプシーと診断されて、そのモットーを継続することが困難になりました。目を覚ましていられないのに、どうやって人生をよくすることができるでしょう?主治医が診断を告げている時に、緊張とストレスで眠ってしまう自分が、どうやって世界を変えることができるでしょうか?

2012年には、それまで使っていた薬が効かなくなりました。わたしは困惑し、自分に対して「何でわたしの身体はちゃんと動かないのだろうか」と怒りをぶつけるようになりました。わたしの障がいの場合、このような反応が発作の引き金になってしまいました。感情が高ぶると短期記憶が失われ、疲弊の波の連鎖によって自分の意志と関係なく眠ってしまうのです。手が震え、骨が痛み、身体が火照って症状は悪くなるばかりでした。悪循環が続き、もう耐えられない状況になりました。全てが上手くいかない中、何かを変えなければいけませんでした。

2012年の秋、自分の状況を1%でもよくするために行動を起こしました。米国では、米国人障がい者法(Americans with Disabilities Act)により、従業員は自分の障がいに対して合理的な配慮を会社に要求することができます。わたしは自分が疲れた時に立って仕事ができるように、高さ調節できるデスクを合理的な配慮として会社側に要求しました。4ヵ月待たされたあげく、わたしの要求は拒否されました。高さ調節できるデスクは危険すぎると言われました。

ショックでしたが、主治医たちの助けと諦めない努力により、何とかこの状況を克服することができました。この経験から学んだことは、法律があっても障がいがある従業員への会社の理解が不足していると、本来なされるべき合理的な配慮がなされない事態が起こるということでした。また、障がい者以外の従業員でも、腰痛の手術や出産といった合理的配慮が必要とされる状況がある時に、会社側の理解が不足しているために苦労する人々もいるでしょう。このような疑問がどんどん湧き上がってきて、「部屋の中の象」が現れてきました。それはいつもそこにあったのですが、やっとわたしに見えるようになったのです。

数ヵ月後、所属していたワシントンDCエリアで社内初の「障がい者Employee Resource Group(以下ERG)」を立ち上げました。最初は何をしていいのかわかりませんでしたが、すぐに仲間たちの経験がどんなものかがわかってきました。ジョークによる無意識の差別、オフィス自動化によって仕事がなくなったこと、そして数え切れないほどの恐れと困惑の経験(自分の障がいのことを話した結果、仕事を失うかもしれないという不安の中で、上司に説明しなければならない場合など)が話されました。このようにお互いの経験を分かち合うことが、わたしたちみんなにとってとても有益だということがわかってきて、それがわたしたちの主要な活動になりました。

このような活動を続けた結果、わたしたちは社内カルチャーの変化を感じています。それぞれの従業員が職場でも自分らしく生きることを受容するトレンドが拡がってきています。それは多くの小さなアクションの積み重ねで起きていることで、1%の変化を目指すコミットメントが拡がっていることの表れです。

思い切って自分の経験を分かち合うことの力

わたしがアメリカ全国レベルの障がい者ERGに初めて参加した時、ナルコレプシーとはどんなものなのか発表してほしいと言われました。わたしの頭の中に「自分が何もできない変な人間だと思われたらどうしよう」という不安と葛藤が沸き起こりましたが、口では「はい、やります」と答えていました。

発表当日、わたしはものすごく緊張していたので、わざとゆっくり喋って睡眠発作を誘発しないように気をつけました。1時間の発表の後、多くの反響がありました。ある女性は、わたしと同じ症状がある娘さんのことを話してくれました。学校の授業中に眠ってしまうので、とても困っているということでした。後日、彼女とその娘さんに会って4時間も話し込んでしまいました。少しでもわたしの経験が助けになればと思いました。また、たくさんのメールが届くようになりました。わたしと同じようにナルコレプシーで苦しんでいる人や他のさまざまな障がいがありながら仕事をしている人たちからでした。

この時から、わたしにとって仕事や周りの人々との関わりがより意義深いものとなりました。会社は単に自分が働く場所ではなく、自分が受け入れられているコミュニティーになりました。このような帰属意識が生まれてきたことが、思い切って自分の経験を分かち合った直接的な結果だと思います。その時はわかっていませんでしたが、その日こそわたしがリーダーになった日だったのです。その日の発表の後、わたしはノートパソコンを閉じて4時間昼寝をしました。発表のストレスがそうさせたのです。

リーダーとして自分の経験を分かち合う時、わたしたちは他の人たちがそれに倣う手本を示すことになります。例えば、自分は強いストレスがかかるとしばらく昼寝をしないといけない人間であると自己開示することで、他の人もその人なりの限界や能力の違いがあっても、「何もできない」のではなく、やり方が少し異なるだけで、自分の状況や症状を話してもいいのだと伝えることになるのです。

ジャスティン・グリーンさん写真③

ですから、みなさんもぜひご自分の経験を周りの人たちに分かち合うことを検討してみてください。また、他の人たちがそれぞれの経験を話せるような場を積極的につくってください。そして、自分が経験を話すときに「わたしは何を失うだろうか」ではなく「わたしとこれを聞いた他の人々が何を得るだろうか」と考えてほしいと思います。最後にわたしを励ましてくれた言葉を紹介して終わります。

「友情は、ある人が別の人に『えっ、あなたも?自分だけかと思っていた!』と言うその瞬間に生まれるものです」(英国作家C.S.ルイスの言葉)

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ライター 品川謙一

ADHDの妻・娘と暮らすウェブ開発者。

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