言葉の向こうにある「心の声」を聴く。~斉藤りえ議員インタビュー~

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ライター:Media116編集部

病気のために1歳で聴力を失った斉藤議員は、その半生を描いた書籍「筆談ホステス(光文社 刊)」で注目を集めました。2015年には東京都北区議会議員選挙でトップ当選を果たし、聴覚障がいのある政治家としての活動をスタート。バリアフリーな社会の実現のため、精力的に取り組んでいます。今回はそんな斉藤議員に、人とのコミュニケーションのあり方や、子育てについて、そして政治家としての想いをうかがいました。
※今回のインタビューは、UDトークというコミュニケーションアプリを用いて行っています。

自分から心を開いて近づくことがコミュニケーションの第一歩

Q:著作を読ませていただき、子どもの頃から周囲の人たちと、どうやって親しくなり、コミュニケーションをとっていたのかに興味がわきました。

私が通っていた小学校には国語と算数だけ特別教室があり、それ以外の授業はすべて、健常者のクラスメイトと一緒に授業を受けていました。子どもの頃はあまり意識していませんでしたが、もしかしたら、クラスメイトの理解があったのかもしれません。それに、大人よりも子供のほうが、お互いの違いを気にせずに仲良くなれる部分もあると思います。

中学に入ると環境も変わり、小学校のようにマンツーマンで受けられる授業もなかったので、勉強について行くのが大変になりました。ただ私には二つ上の兄と、家族のような存在の親友がいたので、この2人に支えてもらっていた部分も大きかったです。

斉藤りえ議員の写真

Q:聴覚障がいの方だと、一対一ではコミュニケーションがとれても、複数の人たちとの会話についていくのが難しいという話も聞きます。そのような時に、どんな方法でコミュニケーションをとっていたのでしょうか?

友達の輪の中でのコミュニケーションは、「今こんな話題について話をしているよ」と誰かが教えてくれたり、私にもわかるようにゆっくり口を動かしてもらったりしていました。でも時々、早い展開についていけなくなることはありました。

また、私から何か話しかけるような時は筆談を使います。付き合いが長くなると、みんな私の言葉にも聞き慣れて、何を話しているのかわかってくれるようになります。そうなれば筆談はほとんど必要なくなりますが、同じ言葉でも意味が複数ある場合や、難しい言葉が出てきた時は、筆談で漢字を書いてもらって理解するようにしていました。

Q:人間関係を築いていく上で大切にしているのは、どのようなことでしょうか?

私は10代の頃に、アパレルショップで接客アルバイトを経験しています。最初はお客さまに「いらっしゃいませ」と挨拶することしかできませんでした。私の耳が聞こえないと知らずに何かを質問されたり、早口で話しかけられたりすることもありました。そして、初めてのお客さまのほとんどは、それまで聴覚障がい者に会ったことがないので戸惑ってしまいます。

そんな時に私が取った方法というのが、自分から話しかけることです。「私は耳が聞こえません。ゆっくり話してくれたらわかります」と、最初にお願いしてしまうのです。そうすることで、お客さまはどうやって私と向き合えば良いのかがわかり、そこからコミュニケーションが生まれました

初めて会う人には、耳が聞こえないことと、どのように対応して欲しいかを最初に自分から伝えること。人と良い関係性を築くには、いつもそこがスタートですね。

接客業、そして子育てを通して気づいた「言葉より大切なこと」

Q:接客業というお仕事を通して、どんなことを学ばれましたか?

会話をすることや、相手の気持ちを考えることを教えてもらいました。私がホステスという仕事を選んだ時、最初は誰もが、私に接客業は無理だと言いました。でも、最初から無理と決め付けるのではなくて、いろんな方法があることを証明したいと考えました。結果的にこの経験が、自分の成長にもつながったと思います。いろんな方たちとお話をすることによって、たくさんのことを考える機会も与えられました。

それに、接客に筆談を取り入れることで、相手の言葉だけではなく、その言葉をどのような気持ちで言っているのか、相手の心を読みとって考えるようにもなりました。それは私の耳が聞こえないからこそ、できたことだと思っています。

筆談ボードを記載する斉藤りえ議員の写真

Q:現在6歳になるお子さんとは、どのようにしてコミュニケーションをとっていますか?

娘とは、生まれた時からずっと2人で生活してきたので、常に誰かを介して会話をすることはありませんでした。娘は私の言葉を全部理解していますし、私も娘の話すことはわかります。ただ、幼稚園などで友達と遊ぶ中で覚えた、私の知らない言葉が会話に出てくることがあります。そんな時は「あいうえお表」を使って、私にその言葉を教えてくれましたね。今は娘も成長したので、わからない言葉が出てくると紙に書いて教えてくれます。

Q:出産と子育てを体験することで、ご両親に対する思いはどのように変化しましたか?

やはり、自分が親になって初めて、親の気持ちがよくわかりました。子供の頃は、親に言われて意味がわからなかった言葉も、今となれば「あの時はこういう意味で言ってくれたのだろう」と気づくことがたくさんあります。おそらく両親は、今私が経験している子育てよりも大変な思いをして、私を育ててくれたと思います。すごく教育熱心で、私が今こうして多少なりとも声を出して話ができるのは、幼い頃から母が一緒に鏡を見ながら練習しくれたおかげです。それに、母が1枚1枚手作りして言葉を書いたカードを使い、何度も繰り返し練習しました。手をかけて育ててくれたことを実感しています。

私は親になって6年目。娘と一緒に私も親として成長しています。まだまだこれからですが、心がけているのは、娘の気持ちとちゃんと向き合うこと。口で言うのと違うことを、心で思っていることがありますし、子どもにとって安心できる母でありたいと思っています。

聴覚障がいの当事者として心のバリアフリーを実現したい

筆談中の写真

Q:政治家になろうと思った一番の理由とは?

1歳で聴力を失った私は、物心ついた頃から障がい者として扱われ、就職先を見つけることも困難で、悔しい思いを何度も経験してきました。まだ若い障がい者に、私と同じような悩みを抱えて欲しくない。働ける環境に恵まれれば、自分の能力を発揮してイキイキと働ける障がい者はたくさんいると思っています。だからこそ、日本の社会で障がい者に対する理解がもっと進み、最終的には健常者と障がい者が一緒に働ける環境を作っていきたいと思い、政治家を志しました。障がい者への理解が進む社会になってほしいと強く願いながら、日々の活動に取り組んでいます。

Q:現在力を入れていることや、今後の展望について教えてください。

政治活動では主に、「バリアフリー社会」「女性・子育て支援」「高齢者に優しい街」を政策に掲げています。障がいを持つ私が議員になったことで「区役所の環境改善」につながった事例として、北区会議の傍聴席で、音声が表示されるタブレットの貸し出しが可能となりました。

難しい壁にぶつかることもありますが、ハンディキャップがあっても政治に取り組めているのは、地域の皆さまや議会局の皆さま、そして議員の皆さまのご理解があってこそ。今後は、北区でさらに障がい者への理解が進んでいくよう、私だからこそできることを実現していきたいと考えています。

その一つが、手話言語条例の制定です。この条例は鳥取県を先駆けに、全国の地方自治体で展開・成立されているものですが、北区ではまだ成立されていません。ですから、「手話を一つの言語と認め、尊重すること」を、当事者である私がしっかり覚悟をもって訴えていきたいです。同時に、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けて、聴覚障がいに対する情報保障の環境整備をしっかりと行うべきだとも考えています。

現在、議会では音声読み上げソフトを使っています。でも、同じ障がい者として手話をもっと広めていきたいと考えているので、今にして思うと、幼少期から手話を使えていたら良かったなと思います。そのようなこともあり、週に2回、北区の聴覚障がい者協会の方たちに手話を教わっているところです。

斉藤りえ議員の正面写真

Q:最後に、当事者へのメッセージをお願いします。

「人の心が聴こえる街に」、これは私のキャッチフレーズです。聴覚障がいの当事者である私だからこそ、人の心をしっかり聴きたいという想いが込められています。障がい者が、自分らしく暮らせる生活を手にするのは容易ではありません。それは、結局のところ障がいを抱えている者にしかわからない悩みなのかも知れません。

でも政治家になったからには、私の推進している「政治の場からバリアフリー」を広げていき、これから生きる子どもたち、未来の自分たち、高齢者の人たち全員の幸せのために、誰にとっても優しい街づくりを必ず実現したいです。そして、「心のバリアフリー」を実現してみせるという気持ちをいつも忘れず、さらに結果を出していけるよう、全力でその役割を果たしたいと考えています。

プロフィール

斉藤りえ(さいとう・りえ) 1984年青森県生まれ。一児の母。1歳の時に病気で聴力を失う。ハンディキャップを持ちながらも、「人と関わることが好き」という信念から、様々な接客業に挑戦。銀座の高級クラブ勤務時に、筆談を生かした接客で「筆談ホステス」として話題になる。半生を描いた処女作「筆談ホステス」はドラマ化もされ、“障がい者と社会”について考えるきっかけになったと高い評価を得る。2015年5月より東京都北区議会議員として活躍中。

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障がいのある方のためのライフスタイルメディアMedia116の編集部。障がいのある方の日常に関わるさまざまなジャンルの情報を分かりやすく発信していきます。

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