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「自分のために生きようと決めたら、自由になれた。」発達障がいと向き合う漫画家 沖田×華さん

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「自分のために生きようと決めたら、自由になれた。」発達障がいと向き合う漫画家 沖田×華さん

ライター:Media116編集部

発達障がいであることを公言し、実体験をもとに描いた作品で知られる漫画家の沖田×華(おきたばっか)さん。元看護師、元風俗嬢であることや、10回以上の美容整形を行っているなど、特殊な経歴の持ち主でもあります。そんな沖田さんに、漫画家になるまでの経緯や、一人の女性としての恋愛観など、発達障がいと向き合いながら生きるということへのアドバイスも聞かせていただきました。

自殺未遂がきっかけで、生き方や考え方が変わった。

−−沖田さんは子どもの頃から発達障がいと診断されていたそうですが、自分自身の障がいを自覚するようになったのはいつ頃ですか?それにはどのようなきっかけがありましたか?

小学生の頃に学習障がい(LD)と注意欠陥多動性障がい(ADHD)と診断され、中学の頃にアスペルガーと診断されました。でも、当時は自分に障がいがあるという自覚はほとんどありませんでしたね。2人いる弟のうち下の弟とは昔から気が合わなくて、その弟が発達障がいで不登校だったこともあって、「私が弟と同じ病気なわけがない」と、障がいを認めたくなかったんですね。それに、長女として親の期待に応えたいという思いもあって。学生時代は学校という守られた空間の中にいてムードメーカー的な存在でもあったので、それほど不具合を感じることはありませんでした。

でも学校を卒業して就職してからは、自分の障がいを自覚するようになりました。その最たるものが、人間関係の複雑さに適応できなかったということ。コミュニケーションが取れなかったんですね。まず、空気を読むとか察することができないんです。准看護師を経て、正看護師として22歳で美容整形外科に就職しましたが、指示されていることがわからなかったり、『あの人があなたの悪口を言ってたよ』って、本人に何の悪気もなく言ってしまうんですよね。それで人間関係がこじれていくという具合です。就職するということは、ただ仕事をするだけではダメなんだと思い知りました。

発達障がいと向き合う漫画家 沖田×華さん取材写真

−−現在のように障がいを受け入れられるようになるまでに、どのような経緯があったのでしょうか?

美容整形外科で働いている時、死のうと思って自殺未遂を起こしたことがあるんです。きっかけは性格のきつい先輩に「死んでしまえ」と言われたこと。それを真に受けた私は自殺未遂を起こしました。夜に部屋の中で首を吊って死のうとしたんです。でも結局失敗して、そのまま朝になって出勤するという…(笑)。そして帰って来て、ぐちゃぐちゃの部屋を片付けながら自問自答しました。それまでずっと、親のすすめでもあった看護師に固執して、看護師じゃないと生きている意味がないとさえ思っていたけれど、看護師は自分には向いていない。ここまで自分が思いつめていた事を親は知らないし、そこまで自分を気にかけてもいないんだから、これからは親の言いなりではなく自分のために生きよう。人のために死ぬことなんかないと思いました

そこからは、お金を稼ぐ生活が維持できるなら仕事はなんでもいいと考えるようになって、看護師を辞めて、知っている人がいない土地でやり直そうと、金沢から名古屋へ行って風俗のバイトを始めました。水商売や風俗って人間関係が希薄で、自分にはちょうど良かったんですね。お互い源氏名で呼び合って、突然関係が切れてもあと腐れなし。永遠に23歳でいられるなら、一生やっていたい天職と今でも思っているくらい。でも風俗って、年齢とともに価値が下がっていく世界です。自分の価値もどんどんなくなっていくことに悩んでいた頃、現在の彼氏と出会いました。彼に「東京においでよ」と言われたのがきっかけで、25歳の時に名古屋から東京へ出て、漫画家を目指すことになります。

現在の彼氏と知り合った当時、彼は妻帯者で子どももいましたが、半年後に離婚してしまって…。「広い家に一人じゃ寂しいから東京に出て来ない?」と誘われました。それで、当時同棲している彼がいたんですけれど、名古屋での生活と東京での生活を天秤にかけてみたら、東京のほうが面白そうだったので、別れ話をすることにしました。元彼はメンタルが弱くて、何かあると数日間は食べられなくなるんです。だからココイチに連れて行って、カレーをまずはお腹いっぱい食べさせて…。「よし、これで2〜3日は何も食べなくても何とかなるだろう」という状態にしてから、別れ話を切り出しました(笑)。東京へ行って、漫画家である今の彼にすすめられたのがきっかけで漫画を描くようになり、風俗での体験を元にした4コマ漫画を雑誌に載せてもらえるようになりました。

彼氏にカレーを食べさせるイメージ

自分をさらけ出すことに抵抗はない。取るに足らない存在だと思っているから。

−−ご自身の発達障がいをテーマとした漫画を描くようになったきっかけは?

東京へ出て、漫画を描くまではスムーズだったけれど、最初の単行本「こんなアホでも幸せになりたい」が全然売れなくて…(笑)。
食べていくために看護師としてもう一度働こうと思って病院を探していた時に、光文社の方から声をかけていただいて。それで「ニトロちゃん みんなと違う、発達障害の私」を描くことになったんです


それまでの私には、「漫画は笑えるものじゃなきゃだめ」という先入観がありました。だから「ニトロちゃん」のようなテイストの漫画は成立しないのではないか?と半信半疑で、描き殴りながら描いていましたね(笑)。自分でも思い出すのがつらいエピソードもあったから、泣きながら描いた部分もありますよ。この作品では、発達障がいの症状の中でも比較的わかりやすいものをピックアップしているので、これがすべてじゃないんです。でも、 発達障がいの子を持つ親とか健常者の方たちからの反応が良くて、私の漫画が発達障がいについて知るきっかけになることに初めて気が付きました

発達障がいと向き合う漫画家 沖田×華さん取材写真

−−沖田さんは、どんな人に、どんなことを伝えたいという思いで漫画を描いていますか?

ぶんか社の担当編集さんに声をかけていただいて2011年にスタートした「毎日やらかしてます」というシリーズがあるんですけれど、これを例にすると、 最初は過去の体験を題材に描いていただけ なんです。とにかく日々あらゆることでやらかしているので(笑)。でも、第三者から見て危ない行動は、無意識のうちにしている障がいに基づいた行動であって、本人の性格によるものじゃないと、気づいてもらおうとしていたのかも。2巻以降になると、当事者として社会に溶け込むことを容易にするための対処法や、実際に使ってみてよかったと思えるアイテムなどを紹介するようになってきています

−−−自分の体験を漫画にすることに抵抗はありませんでしたか?

抵抗はなかったです。もともと羞恥心に欠けているし、自分は大したことのない存在だと思っているので。実は、金沢から名古屋へ出た時も、親には風俗の仕事をしているとは言っていなかったし、東京で漫画を描いていることも、しばらくは伝えていなかったんです。ところが、久しぶりに富山へ帰ったら、地元の書店で自分の本が大々的に売り出されているのを見てびっくりしました(笑)。「蜃気楼家族」という作品では、自分以外の登場人物は全て実名を使っているので、実家が中華料理屋だったこととか、地元の人にはすぐにバレてしまうような内容で…。子どもの頃に目撃した、父と母が裸で戯れている描写なんかも包み隠さず描いていたので、母にものすごく叱られましたね(笑)

実家の中華料理屋のエピソードのイメージ

一人の彼氏と10年以上過ごしたことで、理解力や共感能力が上がってきた。

−−仕事や恋愛、結婚に対する考え方は、以前と変わったところはありますか?

恋愛は基本的に受け身なので、好みのタイプの男性というのがないんですよ。それに、昔から性的に奔放なので、いつも体の関係から始まるんです。言葉は必要ないんですよね。でも、これまでの傾向としては付き合うのは年上が多いですね。バツイチや子どものいる人の方が包容力もあって、可愛がってくれる。それに私が何かやらかしても怒らない(笑)。そんなところところが魅力だと思います。

今の彼氏とは付き合って13年になりますが、一人の人とこんなに続いたことがなくて…。長く付き合うことで自分の考え方が変わったと感じることがありますね。共感能力が上がって、相手の気持ちが受け入れられるようになってきたんです。例えば私は色にこだわりがあって、青の中でもサファイアブルーが好きなんです。ある時、彼氏が私に財布を買ってくれると言って、ネットで見つけた財布をプレゼントしてくれました。でも、届いた実物は緑色で…。その時、彼が私のために時間をかけて探してくれたという気持ちが嬉しいという、自分のこだわりを超越した感情が自分の中に芽生えたんです。以前は自分のことだけで頭がいっぱいで、ジェットコースターのように気分の浮き沈みが激しい日々を送っていたんですけれど、今は比較的穏やかな時間を過ごせるようになっています。ここまでくるのに時間がかかったけれど、今は何かを選ぶにしても、思考がふたりで何かする前提になっているんですよ

昔は自分のためだけに働いていたし、お金のないことが恐怖でした。自分には結婚は絶対できないから、早くお金を貯めて自分の家が欲しいとも思っていましたね。結婚して子どもを産み育てて…ということが、世の中的には普通のことかも知れないけれど、私にとっては普通のレベルが高すぎて、割に合わないと考えてしまうんです。女の人はいずれ体の中から「子どもが欲しい」という声が聞こえてくるらしいですね。今のところその声は聞こえませんけど。

結婚については、心のままにという感じですね。彼氏との関係は結婚したからと言って何かが変わるわけではないと思っているので…。ただ、相手が死んだ時にどうしようかな、もし夫婦だったら見送ってあげられるし、介護もしてあげやすいと考えることはありますね。

発達障がいと向き合う漫画家 沖田×華さん取材写真

−−今後の夢や目標はありますか?

基本的には仕事面でも受け身で、周りが勝手に動いてくれるような部分もあるんです(笑)。ただ、漫画家でもある彼氏が教えてくれた「漫画家の10か条の心得」を守りながらやっていますね。「絶対にSNSで同業者の悪口を言ってはいけない」とか、「編集と喧嘩をしてはいけない」とか…。今は漫画が売れるようになって、助けてくれる人もいっぱいできましたが、あくまで損得勘定があってのことだと。売れなくなったら誰も振り向いてくれないと。そこは肝に銘じています

漫画を描く仕事は日々のルーティンとして習慣づけることで、障がいを抱えながらもこなすことができています。時々、手の向きを逆に描いてしまうようなことがあって(笑)。アシスタントさんに直してもらうこともありますね。今連載中の作品に、講談社の「透明なゆりかご」という漫画がありますが、毎回プロットを作るのがとても難しくて、週3回は講談社に通っています。

これは漫画にも何度か描いたことがあるんですけれど、私は子どもの頃から緘黙(かんもく)になることがあって…。一度この状態に陥ると、メールすら打てなくなるくらい、全く言葉が出てこなくなってしまうんです。でも、LINEのスタンプを使ってなら、なんとかやりとりできた経験があります。緘黙はまだまだ世間一般的ではないことだし、緘黙になってしまう人のためにLINEスタンプを作ろうかな…と思ったりしています

かんもくスタンプのイメージ

漫画以外では、女性支援団体から講演依頼をいただくようになって、その方面でのお仕事も増えていくんじゃないかなと思います。渋谷を拠点に活動している、bond projectという特定非営利活動法人がありまして、行き場をなくした若い女性を支援している団体です。去年、このような支援団体を全国的につなぐ若草プロジェクトというネットワークが立ち上がりました。作家の瀬戸内寂聴先生が呼びかけ人で、プロジェクトの設立記念シンポジウムに昨年呼んでいただき、「生きづらさを語る」をテーマに、お話させていただいたんですよ。

−−精神疾患を公にできていない人へのアドバイスをいただけますか?

社会人になってからの方が、周囲に言いづらいかも知れませんね。当事者は何も思っていなくても、健常者は考えすぎるところがあるので、職種によっては慎重になるべきというか、言うタイミングは考えた方が良いと思います。開き直りは一番良くない。特に難しいのが手帳を持っていない人ですよね。でも仕事に支障が出るなら、周囲の人たちにできるだけ細かく伝えた方がいいと思うんです

「こういう障がいだ」と言い放つだけでは、「で、配慮しろってこと?」と反感を買ってしまうことがあるので、「こんな理由でこういう仕事ができない」という自身の障がいの特性やメカニズムをきめ細かに説明する。その上で「だからこんな迷惑をかけるかもしれません」という伝え方をするなら、ハードルは下がるんじゃないかな。人間関係は日々変わっていくもの、変化しやすいものなので、変わる前提で学んでいくという姿勢が必要だと思っています。

発達障がいと向き合う漫画家 沖田×華さん取材写真

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幼少期から「生きづらさ」を心のどこかで感じながらも、それを障がいのせいではなく、血液型(B型)のせいだと思っていたという沖田さん。実際にお会いしてみると、本人はいたって自然体。日々何かを「やらかし」ながらも、それを作品へと昇華させることで、私たち読み手に笑いやユーモアだけではなく、発達障がいへの知識や、生きる勇気すら与えてくれる。これをきっかけに、沖田さんの作品をもっと読んでみたくなりました。
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プロフィール

おきたばっか。1979年、富山県生まれ。高校卒業後、看護師として小児内科、美容整形外科などで勤務。その後、風俗嬢を経て漫画家の道へ。沖田×華というペンネームは、自身がファンであったルポライターのゲッツ板谷氏が名付け親となっている。2008年、初の単行本『こんなアホでも幸せになりたい』(SUN MAGAZINE MOOK)を出版。『ニトロちゃん みんなと違う、発達障害の私』(光文社)以降、自身の発達障がいを題材にした作品も発表。代表作に『蜃気楼家族』(幻冬舎文庫、全5巻)、連載中の作品に『毎日やらかしてます。』シリーズ(ぶんか社、既刊4巻)、『透明なゆりかご 産婦人科医院看護師見習い日記』(講談社、既刊4巻)がある。

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ライター Media116編集部

障がいのある方のためのライフスタイルメディアMedia116の編集部。障がいのある方の日常に関わるさまざまなジャンルの情報を分かりやすく発信していきます。

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