一つじゃない 第8回
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ライター:風来坊
日本で一番高い山は富士山であり、その標高は3776mもあります。
では、富士山はどこの県のものなのでしょうか?
富士山はとても大きいので山梨県と静岡県を跨いでいます。
ですから、どこの県のものとは言い難いのではないでしょうか。
もし、「富士山はうちの県のモノだ」と言う方がいたら、それは「正しいけれど、正しくない」ということになります。
モノの見方は一つじゃない。
<はじめに>
「障がい者はずりぃよな(無料で)支援とかしてもらって。俺ら(健常者)は自分で稼がなきゃなんねぇんだぞ。」
これは「私に地域で福祉サービスが提供されていないこと」(過去記事参照ください)に関して県へ苦情を申し出た際に職員が私に向けた言葉です。
<福祉のコスパも一つじゃない>
「福祉は無料」と勘違いしている方がいます。
また「福祉のために消費税が増えた」と勘違いし「障がい者のせいで消費税分多く支払わせられている」と見当違いな皮肉を言う方もいます(実際の消費税の内訳の多くは児童、子育て、高齢者対策に使われています)。
しかし、実際の「福祉」は有料且つ高額です。
一つ実例を挙げると何をするにも求められる診断書です。
これは医療機関ごとに金額が違うので一概には言えませんが、私の通院している医療機関では1通の診断書を取ると約1万円が必要になります。
そして、この診断書は受けたい「福祉」によっては2通も3通も必要になるのです。
更に診断書は1度取れば終わりではなく定期的に提出を求められるのです。
ですから、障がい者は「福祉」の入り口に立つだけで高額の診断書を求められており「福祉は無料」ではないのです。
しかし、こうした現実を多くの方は知りません。
酷いケースでは住民の幸せのために働く公務員でさえ、その事実を知らないのです。
福祉は無料ではなく有料で、しかも高額なのです。
<福祉の意味も一つじゃない>
そもそも「福祉」とはなんでしょうか?
広辞苑には「公的扶助やサービスによる生活の安定、充足」という記述があります。
だとすると、多くの方が想像する施設などでの支援が相当なのかも知れません。
しかし「福祉」には「生命の危機からの救い」という意味もあるそうです。
つまり「それのお陰で救われるモノ」とも言い換えることができます。
それは福祉施設で提供されるモノかも知れないし、その人の趣味かも知れないというわけです。
私の場合は、プラモデルを作ることで心が救われるので、私にとってのプラモデルは「福祉」に当たります。
また「自分は健常者だから福祉なんて関係ない」と考えている方がいると思いますが、広辞苑に基づく言葉のロジックに当てはめると健常者であっても各々の「福祉」があり、スポーツが好きならスポーツがその方の「福祉」ですし、愛する人が居るならその人の存在が「福祉」になるのです。
つまり「福祉」と関わりのない人間なんていないのです。
<福祉の制度も一つじゃない>
「自立支援医療制度」という「福祉」があります。
これは、収入が少ない精神障がい者の医療機関での窓口負担が1割になる制度です。
私も利用しており、毎月の支払いで助かっています。
しかし、この制度を利用するためにも高額の診断書が必要になります。
更に診断書は2年毎に提出し直さなければならないので、私が実質的にこの制度で支援してもらっている金額は高校生の1か月分のアルバイト代に満たないものとなっており、それは精神障がい者が助かる制度ではありますがお得する制度ではないのです。
<福祉の制度も一つじゃない2>
私は科学館が好きです。
しかし、好きになったのは「保健福祉手帳(精神障がい者の障害者手帳)」を取ってからでした。
実は「障害者手帳」を提示すると無料になる施設があり、更に「身体障害者手帳」や「療育手帳(知的障がい者の手帳)」を提示するとJRを割引運賃で使えるのです(精神障がい者のJRでの割引はありません)。
このように様々なサービスを受けられる他に、福祉サービスを受けるために施設等に提示する「障害者手帳」ですが、これを取得するためにも高額の診断書が必要になっているのです(しかも申請してから審査が終わり発行されるまでかなりの時間がかかります)。
<健康で文化的な最低限度の基準も一つじゃない>
健康で文化的な最低限度の暮らしをするためには1か月にいくら必要でしょうか。
生活困窮者の生活を支える「生活保護」の金額はそれを明確に数値化している最たるものだと言えます。
また、収入が少ない障がい者の生活を支える制度に「障害年金」という制度もあります。
では、生活保護と障害年金では同じ金額が支給されているのでしょうか。
私の身の上をモデルに生活保護費と障害年金の金額を算出すると
<仙台市在住、30代への保護費支給額>
生活扶助73,720円+住宅扶助37,000円=110,720円/月
<利き手、薬指、小指の用を廃したもの>
障害年金3級=0円/月
になります。
障害の程度が3級の場合は障害年金の支給がありませんが、厳しい国の審査で障害の程度が重く、1級や2級と認定された場合は、
1級=81,427円/月
2級=65,141円/月
という金額が支給されます。
過去記事でも書きましたが、国の審査は厳しいため障害の程度が1級と認定される件数は少なく、多くの人が2級の認定を受けることから、実質的に障害年金を支給されている方は2級の金額の65,141円/月を支給されていると今回は考えてください。
では、生活保護と障害年金の金額を比較してみましょう。
生活保護(仙台、30代)110,720円/月>障害年金(2級)65,141円/月
…どうでしょうか。
これを見ると障害年金を支給されている方は健康で文化的な最低限度の生活ができる金額より45,579円/月 少ない金額が支給されていることになります。
更に、生活保護では医療機関を受診しても基本的に無料ですが、障害年金は医療機関での窓口負担があります。
考えてみて下さい。
障害がある方の多くは定期的に医療機関に通院する必要があります。
つまり、生活保護の方より障害年金を支給されている方は医療機関で支払いをする機会が多いので窓口での支払いも多いという事になり、障害年金を支給されている方は健康で文化的な最低限度の暮らしを保つための金額より45,579円/月 少ない支給額だけではなく、更に医療費という負担も重なっているのです。
これらからわかるように障害年金を支給されたとしても健康で文化的な最低限度の暮らしを保つことができないのです。
<おわりに>
身近に障がい者が居ない人にとっては「福祉は無料」と見えてしまうでしょう。
しかし、実際には「福祉」の入り口に立つだけでも高額の診断書が必要ですし、その診断書も何度も取らなければなりません。
更に「福祉」を受けることができるようになっても、その支援は「身近に障がい者が居ない人」の想像するような手厚いものではありません。
感情的に障がい者を批判することは簡単ですが、「福祉は有料且つ高額」と一人でも多くの方に真実を知って頂ければ幸いです。
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ライター 風来坊
東北の片田舎在住のアラフォー。 児童虐待、いじめ、パワハラ、自傷による措置入院を経験。 田舎では福祉に偏りがあると考え30代から大学で福祉を学ぶ。 数年前には事故で利き手が不自由になり、現在はリハビリを兼ねた趣味(プラモデル、ニードルフェルト、UVレジン)に没頭中。 いつか全ての人が楽しめる駄菓子屋を開きたい。
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